第六十五話:plot

「自動書記ってゆーやつだねえ。それ。」

 昨日ヤマゲンが貰った手紙について、金太郎、もとい、麗美香は云った。

「自動書記?」

「うん。自動書記。死んだ人の霊が生きてる人の身体に入って文字を書くやつ。」

 昼休みにやって来た麗美香を連れ出して中庭で一緒に昼食を取りながら会話していた。目的は美霧話では無かったんだが、話の流れでこうなってしまった。

「自動書記かあ。そんなのがあるんだ。よく知ってるな?」

「ん? こんなの一般常識じゃん。」

 こいつの常識は、みんなの常識ではないことを、こいつは知らないらしい。さもあたり前の事の様に云いやがる。

「それに美霧って人は、死んでるんでしょ? その人が死んでから手紙が届く。しかも死んだ後に下駄箱に入れるなんてことが出来るとしたら、それしかないでしょ。」

「そのことだけどな、美霧は一応、学校の公式発表では行方不明扱いになってる。でも、実際は、きっとあの化物に殺されたんだ。摩耶先輩が霊視でそんな風に云っていた。」

「摩耶先輩? ああ、この学校で霊視している人だよね。その人。」

 ああ、そういえば、こいつの摩耶先輩って接点無かったんだな。ちょっと意外だった。そっか、まだこいつ、摩耶先輩と会って無かったんだ。

「あー、ということは、美霧さんが死んだって云ってるのはその摩耶先輩一人ってことだよね?」

 ん? まあ、そうだけど。こいつは何が云いたいんだ? まさか摩耶先輩の霊視が間違ってるとでも云うつもりなのか? それとも、摩耶先輩が嘘をついているとか? なんのために?

「手紙の内容は?」

「や、それが、ヤマゲンの奴が教えてくれない。プライベートな内容だから自分には見せられないってさ。」

 麗美香の奴、矢継ぎ早に訊いて来やがる。

「うーん。手紙の内容がわからないとなんともだなあ。オレっ娘ちゃんは、何か云ってないの?」

「あいつが云うには、手紙は間違いなく美霧が書いたものだって。内容も美霧以外では書けないようなものだって。だから、あいつは本当の美霧の手紙だと信じている。」

「ふーん。まあ、とりあえずオレっ娘ちゃんを信じておこうかあ。別にこれ以上騒いでもしょうがないし。ポチはどうかしたいの?」

「うーん、そうだなあ。本当に美霧の手紙なのかだけははっきりさせたい。」

「オレっ娘ちゃんがそうだと云ってるんだから、それでいいんじゃないの?」

「いや、誰かの悪戯なら、その目的を知りたいっていうか。」

「悪戯なのかなあ。なんのための悪戯?」

「わかんねえよ。そんなの。」

「実害無さそうだし、いいんじゃないの?」

「まあ、そうだけどよお。」

 なんかこう、ざわざわするんだよなあ。

「まあ、いいわ。その件は、別に興味ないわ。」

 興味ねえのかよ。まあ、ヤマゲンの事だから関わりたくないのかもしれないなあ。こいつは。


「えっと、それとなんだっけ? さっきの話。ユニーク枠がどったらとか云ってたね? それがどうしたの? そっちの方が面白そう。」

 麗美香は、眼を輝かせていた。

「面白いってなんだよ。まったく。まあ、お前が何か知らないかと思ってな。この学校のユニーク枠の事。」

「そんなの、広報課に訊けばいいじゃん?」

 なんだ、つまんなーいっといった態度で大げさにため息をつきやがった。このやろう。

「いや、そういう対外的な話じゃなくってなあ。」

 そうだった。こいつと話すと話が進まないんだった。なので直球でいこう。

「この学校が、ユニーク枠で集める人材って何なのか? それと、集めて何企んでるんだろうって思ってな。なんか怪しいと思わねえか?」

 出来るだけ、こいつが興味持ちそうな言い回しで云ってみた。それが功を奏したのか、麗美香はまた眼を輝かせはじめた。

「企むって、学校が、何か企んでるってこと?」

「うん。恐らく。」

 最後のひと押しに、核心めいた風を装った。

「なになに? 世界征服とか? 革命とか?」

「そうかもな。」

 そんなことはないと思うが、同意しておけばこいつはやる気になりそうだったので、同意しておいた。

「ポチっていろいろと首突っ込むの好きね。わたしもそーいうの好きよ。よしっ、その話、乗った!」

 ぽんっと膝を叩いて立ち上がった彼女は、

「わたしが調べてみる。」

 鼻息を荒くしてニンマリと笑っていた。

 なんとなくだが、こいつの扱い方がわかってきた気がする。要するに、こいつ退屈してるんだな。

 もとより、うまく炊きつけて調査してもらうつもりであったが、それでもやはり一抹の不安がこいつにはある。ちゃんとやれるんだろうか? おつむが少々危なそうだからなあ・・・・・・でも、今はあいつに頼るしかなさそうだ。こいつは学校側に近い位置に居ながら、学校側ではなく財閥側だ。その辺の事は実はよくわかってないのだが、こいつの話から察するとどうもこいつの爺様は孫娘には甘いらしい。学校と財閥の力関係も、財閥の方が強そうな感じを受ける。等式にすればこうだ。麗美香 > 爺様 >学校。

「何かわかったら連絡するね。愉しみにしておいて。」

 そう云って彼女は愉しそうに笑った。

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