第14話 仲間と力


「くっそ…」


隣で風雅が顔を歪めて悪態をついた。

気持ちはわからなくもない。


現在、伊織たちはというと…

ただ、真紀の前に並ばせられ、ひたすらに目を閉じて力を“呼ぶ”という意味のわからないことをしていた。


「怖い顔しないでよ!大丈夫、君たちは選ばれて来たんだからさ!」


真紀はそんな伊織たちをにこにこと見ている。

伊織は仕方なくまた目を閉じた。


真紀が伊織たちに出した指示は、目を閉じてその瞳の裏に神経を研ぎ澄ませろ。ただ、それだけ。


「大丈夫!必ず力の方から君たちの呼びかけに応えてくれるはずだよ」


そんなことを言われても…

全員が思ったはずだ。


そんなの無茶苦茶だって。


「人間上がりは大変だねぇ」


「ほーんと、僕たちは生まれてすぐに自然と力を使えちゃうのにさ」


集中を欠こうと、小馬鹿にしたように言ってくるのはやはりブラック兄弟だ。

リリィやルチアは黙って伊織たちの様子を見ている。


悔しい。


ブラック兄弟に挑発されたわけではないけれど、これくらい…


伊織は閉じた瞼に力を入れた。



それから、初めの変化が起こったのは15分、いや、30分近く経った頃だっただろうか。


「きゃっ!」


小さく上がった声に、伊織は目を開けた。

声の主は花梨だった。手に、綺麗な花を数本持っている。もちろん、そんな花は今までどこにもなかった。


ぽんっ、ぽんっ


続けて花梨の周りに色とりどりの花が現れては地面に落ちていく。


「うん、間違いなく魔導型の植物だね。おめでと」


真紀の言葉に、花梨はやはり少し驚いて、ふわりと花のような笑顔で笑って見せた。


「うわっ!」


そんな矢先、声をあげたのは風雅だ。


なんと、見ると風雅の体は真っ赤な炎に包まれていた!


「風雅!?」


慌てて声をかけると、冷静な返事が返ってきた。


「あ、大丈夫だ」


みるみるうちに炎は収まり、風雅の両手だけにとどまった。


「熱くない…」


燃える両手を見ながら風雅は呟く。


「うん、魔導型炎。炎を扱う悪魔は自分では熱さを感じないものなんだよ。シャネルも火だるまになりながら涼しい顔をしていたからね」


真紀は言った。

そういえば、シャネルは使役型で系統は火だと、前に言っていた。今度必ず見せる、とも。次に会えるのはいつになるだろう。


そんなことを考えて伊織はまた目を閉じた。


ちらっ、

閉じた瞼の裏で、青い何かが揺れた気がした。

ちらっ、ちらっ、

確かに、確かに何かがそこにある感触。


もう少し…もう少しで…


「うわっ!!」


「きゃぁっ!」


不意にみんなの声で一気に現実に引き戻された。


「え…?」


目の前をが通り過ぎた。


目の前に暗い靄のようなものがふわりと。それは、リリィと目があったとき、真紀に見つめられたときと似たような感覚。


恐怖。


はっとして見ると、理音の横、一番端に立っている千里だった。

千里の周りを、その靄、実体のない黒い何かがふわふわと回っていた。


「わぁ…これはすごいなぁ。使役型の…霊魂か。まさかこの力を見ることになるなんてね…」


真紀の言葉から、それがかなり珍しい能力だということが伺えた。

千里は相変わらず無表情でそれを弄ぶように動かしている。


そんなときだった。


眩い光が何処からか弾け、千里の周りにいたそれらを一瞬で消し去った。


「魔導型の光…これまた珍しいのを出したもんだね」


真紀に言われて、理音はびっくりしたように自分の両手を見つめた。


後で聞いた話だが、魔導型で光というのはいそうでいないのだという。光を扱う能力は、ヴァンパイアやその他吸収型や使役型が系統として持つことが多い能力なのだ、と。ゆえに、魔導型としてそれを専門に扱うものはごく稀にしか現れないらしい。


リリィは自分と同じ系統を出した理音を睨みつけるように見ながら、不満そうに舌打ちし、自分の使役する霊魂を消された千里は不貞腐れたように顔を顰めた。


「さて、ラストになっちゃったね」


真紀に言われてはっとした。

全員の目が自分に向けられている。


伊織は震える手を押さえつけ、静かに目を閉じた。


ちらっ、ちらっ


伊織はまた、青い光を見た。


そこに、確かに、何かがいる…

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