第10話 人間上がりと悪魔生まれ
「ねぇ、ちょっとうるさいんだけど。早く始めてくれない?」
話していた伊織たちを振り返って言ったのは、水色の髪をした少年だった。彼の隣には、全く同じ顔をした少年がもう一人座っている。
「兄さんの言う通りだよ。自己紹介とか、後にしてくれる?」
もう一人の方が言った。どうやら双子らしい。
「あぁ、わりぃ」
風雅は言われておとなしく席に着いた。
そんな様子を少し不安げに見ていた先生が慌てて口を開いた。
「じゃ、じゃあ、まずは自己紹介からにしましょう!私の名前はルイ。
先生が言った言葉に、さっきの双子は明らかに不服そうに舌打ちをした。
「もったいないよ〜、ルイちゃん。どうしてそう簡単に力を捨てちゃうのさぁ。僕たち色魔は一人の人と誓いを立てちゃうと力を失っちゃうんだよ〜?折角の色魔の力、もっと有効活用してたくさん遊べばいいのにぃ」
双子の前に座った少年が言った。深い紫色の髪、整った鼻筋、そして腰の辺りから伸びて揺れているのは黒い…尻尾だろうか。
「ルチアくん。それは違うって、前から言っているでしょう。それに、悪魔だとか人間だとか、そういう違いは…」
「あ、僕は別に気にしてないよ〜。人間だろうが、悪魔だろうが、可愛い子は大歓迎。一緒に楽しく遊べれば、それでいいからねぇ」
先生の言葉を遮って、ルチアと呼ばれた少年は言った。
「ま、お家柄そうも言えない人も多いみたいだけど。ルイちゃんも、気をつけなよ?特に上流階級の魔界貴族たちはさ。混血とか、嫌う輩多いからねぇ」
「そんなこと、承知の上よ。生半可な気持ちでプリェンツァの名前と力を捨てたわけじゃないの」
どうやら、この二人の間にはすでに面識があるようだった。
「そ、ならいーけど。話遮ってごめんねぇ。どうぞ続けて」
先生はルチアに眉をひそめながらも、教室に向き直った。
「それじゃあ…自己紹介だったわね。奥から一人ずつ、お願いできるかしら?」
先生の言葉に立ち上がったのは、一番隅に座っていた黒髪の少年だった。
「
それだけ言って、彼はすぐに腰を下ろした。どうやら人間上がりのようだが、人を寄せ付けたくないというようなオーラが感じられた。
「俺は一ノ瀬 風雅!人間とか関係なく、立派な悪魔になってやるつもりだから、よろしくな」
風雅は随分とポジティブな性格なようだ。この雰囲気の中で堂々と言ってのけるのは単純に尊敬する。
「私は
次に立ち上がったのは、気の強そうな少女だった。一際目を引いたのは、その少女の瞳の色だった。透き通るように美しい青。伊織はかつて、こんな色の瞳を見たことがない。
一瞬、理音が伊織を見た。その青が真っ直ぐ伊織にぶつかる。伊織は、なんだか不思議な感覚に囚われた。
この少女には、何かがある。
伊織の本能がそう告げていた。
「あ…えっと、
理音の後ろに隠れるようにして立ち上がったのは背の低い少女だった。か細い声でそれだけいうと、ぺこりとお辞儀してまた席に着いた。そんな少女に、理音はお疲れ様とでもいうように笑いかけていた。
結局、クラスメートは伊織を含め人間上がりが五人、悪魔生まれが七人の計十二人だった。
その中でも、始めに先生と話をしていたルチア・プリェンツァと、伊織が目があった金髪の少年、リリィ・ギーズだけは、生まれがかなりの上流階級らしく、周りからも一目置かれた存在のようだ。二人は、伊織から見ても育ちの良さが伺えるような気品が漂っている。人間界であったら、彼らの立場にいたのは確かに自分だった。それなのに、今となっては大半が、悪魔が人間界の家柄など知らないのは当然とえば当然なのだろうが、伊織の存在など気にもとめていない。伊織は、それを少し悔しく思っている自分に気づき、無意識のうちに条善寺の家に自分が固執していたのだと思い知らされた。
それから、先生は大まかに魔界や学校についての説明をしてくれた。大半がすでにシャネルから聞いたことであり、それら全てが人間上がりである伊織たちに向けた説明であることは容易に判断できた。悪魔生まれの…特に双子、テレサ・ブラックとクレア・ブラックなどは聞く気がないようで退屈そうに頬杖をついていた。
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