第8話 説明と期待

それから学校に着くまでの間、シャネルは学校や魔界、悪魔についていろいろなことを教えてくれた。


悪魔には三級から一級までの階級があること。

それらは試験を受け合格することにより与えられること。

一級悪魔のみが、魔界と人間界を自由に行き来でき、素質のある人間を悪魔にスカウトすることができるということ。


「悪魔には大まかに分けて四種類の型と五つの系統がある。まずは吸収型、変化型、魔導型、使役型の四型だ。系統については火、水、地、光、心、となっている。まぁ、詳しくは学校で教わるだろうからな。お前もこの中から何かしらの力を得るようになるだろう。楽しみだな」


シャネルはそう漠然とした説明をしてくれた。


「ちなみにシャネルはどんな力?」


「気になるか?」


伊織が聞くと、シャネルは笑って言った。


「俺は火系統の使役型、使い魔は…まぁ、秘密だ」


シャネルは含み笑いをしてそう言った。


「今は事情があって見せてやれないが…近々必ず見せると約束しよう。俺のユーリは他のどんな使い魔よりも美しいぞ」


ユーリというのはシャネルの使い魔、相棒の名前らしい。使役型の多くがその使い魔に名前をつけ可愛がるという。


「使役型は、使い魔との仲を深めれば深めるほどに力を発揮する。お前も覚えておくといい」


伊織は素直に頷いた。魔界に来てから、驚くことばかりで、純粋にもっとここのことを知りたいと思う。


「悪魔はみんな人間と変わらない姿をしているの?」


伊織の問いかけにシャネルは首を振った。


「基本的にはな。ただし、変化型は違う。彼らは人間以外…大概が獣に変化することができる。そして、完全な獣の状態と、半人半獣、そして人間の三形態をとるんだ。好き好んで四六時中獣の状態でいるものもいるがな。他には生まれつき角や尾を持つものもいる。これは吸収型に多いが。使役型と魔導型は基本的に人の姿だ。これは変わらん。…大体わかったか?」


伊織は頷いた。


「じゃあ、もし俺が変化型だったら、獣の耳や尻尾が生えてきたりするのか!?」


「それはない」


期待して言った伊織に、シャネルはあっさりと言った。


「吸収型と変化型は基本的に血統に起因するんだ。よって、人間上がりの悪魔は魔導型か使役型以外にはなりえない」


「そうなのか…」


伊織はすこしがっかりして肩を落とした。


「吸収型ってヴァンパイアとかだろ?かっこいいじゃん。俺もそういう力欲しかったのになぁ」


それを聞いたシャネルは一瞬複雑そうな顔をした。


「…そうだな。俺も欲しかった」


使役型のシャネルにも、そういった力に憧れるところはあるのだろう。

伊織はそんなシャネルを見てこの話はここで止めようと思った。


「俺たちの考える悪魔って、もっとエグいやつなんだよ。なんていうか、さ。まさかこんなに人間そっくりだとは思ってなかった」


伊織は辺りを見回して言った。相変わらず、伊織の想像するような悪魔らしい悪魔は一人も見かけない。もうだいぶ歩いたというのに、まだ学校らしきものは見えていなかった。


「そうだな…下等な悪魔、いや、あれは悪魔とは呼ばず、妖の類に入るのだが。それであればなかなかな風貌を持ったものもいるぞ。例えば屍のように、内蔵が飛び出したようなものとかな」


「うぇ…内蔵…」


伊織は頭にリアルに浮かんだそのイメージを慌ててかき消した。


「ははっ、そういやな顔をするな!奴らはこの街の結界の中には入ってこれない。お前が出会うことは滅多にないだろう。呼び出されない限りはな」


「呼び出す…?」


「あぁ。使役型の中にはそういった類の妖を操るものもいるからな。なかなか珍しい能力だからそうお目にかかることはないが。…ついたぞ」


突然そう言ってシャネルは突然立ち止まった。


「ついたって…」


辺りを見回してみても、さっきまでと変わらない街の中である。


「こっちだ」


シャネルに言われるままその後ろを歩いて行くと、彼は民家と民家の間の暗い裏路地に足を踏み入れた。


「え…?」


慌てて後を追いかけて伊織も路地に入っていく。高い壁が両側から迫ってくるような圧迫感に押しつぶされそうだ。


「なぁっ、シャネル…」


そう呼び止めようとした時だった。

突然視界が開け、伊織は大きな校舎の前に立っていた。微かに吹き抜ける風が肌に心地いい。


目の前にある木製のすこし古ぼけたそれは、おそらくシャネルのいう学校というものなのだろう。


「懐かしいな…。卒業以来か」


シャネルはぼそりと呟いた。


「さぁ、いくぞ。覚悟はできているな」


伊織は頷いて、シャネルに導かれるまま、小走りで学校の中に入っていった。

なんとも言えぬようなわくわくした気持ちが膨れ上がってくるのを感じた。

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