第125話 玄天上帝・玄武

 でもその時。


「コール召喚サモン・リヴァイアサン! 玄武に大海嘯!」


 間に合った!


「その技はもう効かぬと――」

「玄武にファイアー・クラッシュ! いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「なにぃ!?」


 理屈は分からないけど、水に高温をぶつけると水蒸気爆発が起こる。


 なんでも、熱したフライパンに水をたらすと、その水が激しく跳ねる現象と一緒らしい。


 それの巨大バージョンなら、絶対に威力があるはず。


 だからこれで。

 倒れろぉぉぉぉぉ!


 ドオオオオオオン。

 轟音とともに、玄武の巨体がはじけ飛んだ。

 壁にぶつかった玄武はひっくり返ったまま、ピクリとも動かない。


「やっつけ……た……?」


 また動き出すのを警戒するけど、動く気配はない。


「やった……。やっつけたぁ……」


 はああああああ。

 やっと倒せたぁぁぁぁ。 




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「見事であった。我の幻影に惑わされず、武をも証明してみせてくれたな。ではそなたらの求める叡智を授けよう」


 ひっくり返ったままの玄武は、そう言うと鍵を落とした。


 あれは、賢者の塔の鍵!


 私は玄武の元へ走って、賢者の塔の鍵を拾った。

 手の平に伝わる金属の感触。


 やったぁ! これで鍵を一個ゲット!

 これで確実に賢者の塔へ近づいたよね。


 よ~し、これからもっと鍵を見つけなくちゃね。がんばるぞー!


「ユーリ、やったな。なあに、俺たちがいれば鍵なんてすぐに集められるさ。次の鍵もさくっと手に入れようぜ。俺の拳も復活させたしな」


 そう言ってフランクさんがナックルをはめた拳を振り上げる。


「そなたも面白い男だな。神官だというのに、まるで格闘家のような振る舞いをする」

「元は冒険者で格闘家だったからな。……まさかまたこのナックルを使うことになるとは思わなかったが」

「神官であれば、戦うより守る方が本来の役目であるべきであろう」

「あんたもさっき、攻撃は最大の防御って言ってただろ。そういうことだよ」

「ふぉっふぉ。これは一本取られたな。おもしろい。気に入ったぞ。お前に我の祝福を授けよう。さあ、受け取るが良い」


 その言葉と同時に、玄武の甲羅からツノが飛んできてフランクさんの拳に当たった。


 ツノはフランクさんが装備していたナックルを包みこみ、その突起を吸収していく。そして見る見るうちに、籠手の形へと姿を変えた。


「我の真名は玄天上帝・玄武。人の子よ、これからは仲間の盾となって戦うが良い」

「ちょっと待て。勝手に決めるんじゃねぇ」

「さて、そこの混ざり物の子供にも良い物をやろう。だがまずは入れ物が必要だな。ちょうどよい、それを使おう」


 玄武がそう言うと再びツノが飛んできて、今度は私のゲッコーの杖についている珠に入っていった。


 すると琥珀のような珠の模様が、ぐるぐると回りだす。

 そしてその渦が収まると、そこには一匹のトカゲがいた。


 トカゲ?


 そりゃあこの杖の名前はゲッコー、つまりトカゲだけど。でもこの珠の中にトカゲがいるなんて聞いたことがないよ?


 トカゲは私と目を合わせると、大きくまばたきをした。そしてするりと珠から抜け出すと、玄武の顔のある方へと歩いてゆく。


 そこに玄武の目から涙のようなものが流れた。

 ころころと転がるそれは、宝珠のように見える。


 宝珠はトカゲの足元まで転がった。

 そして、トカゲはパクリと宝珠を食べた。


 えええええっ。

 食べちゃった?


 あまりのことに呆然としていると、トカゲはすたすたと戻ってきて、再びゲッコーの杖の中に戻る。


「それはお主のこれからの旅に役立つであろう。大事にするが良い。……ああ、そろそろ時間だ」


 そう言うと、玄武はゆっくりと目を閉じた。


「苦難の先に、喜びがある。くじけぬ心で進むが良い」


 そして玄武は、動かなくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る