第124話 金剛不壊

 よく見ると、甲羅のツノが氷からわずかに顔を出している。

 そしてそこから細かい亀裂が走る。


 パリン、パリン、パリィィィン。


「まさか……!」


 もしかして、倒しきれてない?

 亀裂はどんどん大きくなり、バリバリと音を立てて氷を割ってゆく。


 そして遂に、玄武の姿が現れた。


「そんな……。リヴァイアサンも倒した技なのに」


 しかもあの時はまだアルにーさまが大海嘯を使えていなかったから、水魔法の威力は今よりも弱かったはず。


 なのに、なんで……?


「リヴァイアサンから聞いておるぞ。混じりものには気をつけろとな」

「リヴァイアサンから……」


 精霊界で、玄武とリヴァイアサンはそんな話をするの?


 だとすれば、精霊界とはもしかしたらこの世界とあまり変わらないのかもしれない。


「まさか奥義・金剛不壊ふえを使わなければならぬはめになるとは思わなんだ。なかなかの攻撃であったが、まだ甘いな。では攻撃は最大の防御であるゆえ、我も攻撃に転じるとしよう。眷属よ、いでよ!」


 玄武の号令で、天井から十数匹のガーゴイルが飛んでくる。

 ちょっと待って。数が多すぎる。


 でもやらなきゃ!


「ガーゴイルにウィンド・ランス! ガーゴイルにウィンド・ランス!」


 こういう敵の数が多い時は最上級魔法を使えればいいのにって思う。威力は高いし範囲魔法だから敵を殲滅することができるんだよね。


「ガーゴイルにウィンド・ランス! ガーゴイルにウィンド・ランス!」


 玄武の踏みつけをよけながら、ガーゴイルを倒してゆく。


 玄武はアース・クエイクも放ってくるけど、前の時みたいに亀裂ができてそこに落ちることはない。


 ただダメージは結構受けるし、耐性を増やしている玄武を攻撃する手段がない。

 だって攻撃すればするだけ強くなるっていうことだもんね。


 普通の剣での攻撃なら多少はダメージを与えられるみたいだけど、ほんのちょびっとだし、このままじゃいつまで経っても倒せそうにない。


「嬢ちゃん、危ねぇ!」


 次から次にわいてくるガーゴイルに気を取られて、つい注意力が散漫になってしまった。

 そのせいで玄武のしっぽの蛇にかみつかれそうになった私を、フランクさんがかばってくれた。


「……っ」


 私の代わりにかまれたフランクさんに、ヒールをかける。


「フランクさんにヒール」

「ありがとよ、嬢ちゃん。……けど、このまま逃げ続けてもラチがあかねぇな。どうする、アルゴ」

「魔法の一撃で仕留めたいところだけどね……」


 今のところ私の魔法とアルにーさまの大海嘯が攻撃力のある魔法だけど、さっきの合わせ技は効かなかったし、他の魔法っていっても……。


 そうだ。思いついた。

 これなら玄武を倒せるはず。


「アルにーさま、大海嘯は使えますか?」

「まだ魔法陣が光っていないよ」


 確かにアルにーさまの右手に輝きはない。

 でも魔法陣の円は、あと少しで完成されそうだった。フルチャージまで、あとちょっとだね。


 だったらそれまで玄武を引き留めておけばいい。


「ステスル・サークル」


 ゲッコーの杖を地面に向けてステルス・サークルを描く。

 そして。


「スパイダーウェブコート・セットオン!」


 見えない蜘蛛の糸が張り巡らされる。

 玄武に追われているフランクさんとアルにーさまは、私の考えをちゃんと分かってくれた。


「むっ。なんだこれは」


 蜘蛛の糸に絡めとられた玄武が逃れようとあがく。

 でもまだ耐性を得ていない玄武に、そこから逃れるすべはない。


 リヴァイアサンのチャージタイムはまだっ?

 このままじゃスパイダーウェブコートの効果時間が過ぎちゃう!


 見えないはずの蜘蛛の糸が見えるようになってきた。そして薄っすらと消えていこうとしている。


 ダメだ。

 あと少しなのに!


 のそりと、玄武がステルス・サークルの上から動き出した。

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