第101話 ミミックの謎

「やっと着きましたね……」


 フランクさんの知りあいの牧場で牛肉祭りをした後は、たまに現れる魔物を倒しながら順調に旅を続けることができた。


 そして遂に私たちは土の迷宮の手前にある町へと到着したのである。


 このアルデの町は、土の迷宮に入る冒険者たちが装備を整える場所として、かなり栄えていた。

 しかも武器屋と防具屋はいくつもあって、迷宮から出た素材を買い取る冒険者ギルドも今までで一番大きかった。


 ただ普通の町とはちょっと違うなと思うのは、行き交う人の目つきが鋭いところだ。


「そりゃあマトモな人間なら、魔物のいるダンジョンの近くに住もうなんて考えねぇだろうからな。この町に住んでるのは、冒険者か、冒険者を引退したやつくらいだろ」


 フランクさんによると、このアルデの町は元々冒険者たちが集まってできた町なのだそうだ。それが段々と広がって行き、今も拡張を続けている。


 そのうち迷宮都市なんて名前で呼ばれるようになったりして。


「土の迷宮に潜るなら、ちゃんと準備しとかねぇとな」


 まず向かうのは宿屋だ。このところ野宿ばっかりだったから、部屋でゆっくり休みたい。


 いつものように二人部屋を三つ取る。私はアマンダさんと同室だ。

 部屋に入ってアマンダさんにクリーンの魔法をかけてもらうと、思いっきりベッドにダイブした。


「は~。つかれたぁ~」


 野宿とはいえ、ちゃんとテントを張って休んでいる。私のアイテムボックスに入っているテントはゲーム仕様で一回使うと壊れてしまうから、アルにーさまが収納袋に入れて持ってきたイゼル砦が所属する辺境騎士団仕様のテントを使っている。


 ……そんなところまでゲームに忠実じゃなくてもいいのに。しくしく。


 ちなみにダンジョンで使うテントっていうのもある。こっちは何回使っても壊れないんだけど、使えるのがセーフティーポイントと呼ばれる安全地帯に限られるのが難点だ。

 そして土の迷宮にそのセーフティーポイントがあるかどうかって問題もある。


 フランクさんもヴィルナさんも知らないって言うしね……。

 一応、野宿した時はフランクさんが簡易結界を張ってくれたから安心だったけど、迷宮でも効くのかなぁ。


「ユーリちゃん、疲れたでしょう。何か飲み物でももらってくる?」

「いえ。大丈夫です~」

「そう? 無理しないでね」


 ベッドにつっぷしたままでいると、ギシリと頭の横のベッドが沈み、頭を優しく撫でる指を感じた。

 少し顔を横にすると、プルンを頭に乗せたノアールが頬にすりすりしてくる。


 ほわぁ。幸せだなぁ。

 それに久しぶりのベッドが凄く嬉しい。


「柔らかいお布団って、こんなに良いものなんですね……」


 しみじみ言うと、くすりと笑う気配がする。


「そうね。私も騎士としてどんな場所でも眠れる訓練はしてるけど、やっぱりこうしてベッドで休むことができるとホッとするわ」

「アマンダさんもそうなんですね」

「迷宮に入ったらしばらくはベッドで眠れないしね」

「そうですよね」


 一応、私のアイテムボックスの中には簡易ベッドがあったから、野宿といっても地面にそのまま寝なくても大丈夫だった。


 だけどダンジョンの中でテントを張って簡易ベッドを使うなんて贅沢ができるのかなぁ。

 まずそれだけの広さがないと無理だけど、どうなんだろう。


「宝箱のある部屋だったら安全よ」

「そうなんですか?」

「ええ。罠が仕掛けてあることも多いけど、一度解除してしまえばしばらくは罠を張る魔物が発生しないから、入口にだけ気をつければいいの」

「罠を張る魔物、ですか?」

「ええ。ダンジョンにある宝箱は大体ミミックだもの。たまに活動停止しいてる宝箱もいるから、それなら安全よ」

「活動停止ですか!?」

「ダンジョンの上層階に派生したミミックは、吸収できる魔素が少ないから大抵活動を停止してるわね。でもダンジョンの奥の方にいるミミックは、魔素もたっぷりあるから襲ってくるわよ」


 今までダンジョンに宝箱があるのを不思議に思わなかったけど、実は全部ミミックだったんだ。


 あれ。でも活動停止してたら、なんで中に装備とかお金とかが入ってることがあるんだろう。


 疑問に思って尋ねると、アマンダさんが教えてくれた。


「ああ。それは客寄せね」

「客寄せ、ですか?」

「中に宝物の入ってないミミックって蓋があいてるのよ。下層に棲むミミックは冒険者をおびき寄せるために自分で武器とか防具を生成するんだけど、上層のミミックにはそんな力がないから、巡回しているギルドの職員が蓋の開いたミミックを見つけたら短剣とか盾を入れておくの。運が良ければ特殊な効果がつくことがあるのよ」

「ギルドの職員がミミックの中にお宝を入れてるんですか?」


 うわぁ、そんなの初めて知った。びっくり。


「土の迷宮みたいに大きなダンジョンはギルドが管理しているから、入場料を取る代わりに、誰がいつ入って何階まで行く予定で、いつ戻ってきたかどうかを記録しているわ。帰ってこない冒険者がいた場合は、捜索隊が組まれるの」


 そっか……。確かに大きいダンジョンだと、途中で力つきる冒険者だって出てくるよね。

 ゲームみたいに死に戻りができるわけじゃないもんね。


「詳しいことはフランクかヴィルナに聞くといいと思うわ」


 確かに二人はダンジョンのスペシャリストだもんね。後でゆっくり聞いてみよーっと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る