第100話 タウロスは倒しません
せっかくタウロスが動かなくなったことだし、ここはサンダーアローで倒しちゃおうっと。
私はアマンダさんから離れて、杖を掲げる。
「サンダーア――」
「嬢ちゃん、待った!」
突然フランクさんにストップをかけられた私は、杖を振りかぶったまま態勢を崩しそうになった。
「ユーリちゃん、危ない!」
思わず前のめりになった私は、再びアマンダさんに抱きとめられる。
「ふわぁ。アマンダさんありがとうございます」
「いいのよ」
ビックリしたからか、胸がどきどきしてる。
アマンダさんの胸の音も、ちょっと早くなってるみたい。
「どうしたんですか、フランクさん」
「嬢ちゃん、このタウロスのツノは飾りとして人気があるんだぜ。でもこの先端のところが返しになっててな。体に刺さったらすぐに抜けないようになってるんだ。だから抜くためには先端を折らないといけねぇ。そのせいでなかなか完全な形で残らないから、高値で取引をされる」
ああ。確かに鹿の角ってお金持ちの家の壁に飾られてるイメージかも。
どの世界でも、一緒だなぁ。
「しかもな。タウロスはツノを取ると嘘みてぇに大人しくなるんだ。それで王都の近くにはツノのないタウロスを飼って増やしてる牧場がある。肉はうまいし、雌なら牛乳がとれるからな。だからちょっと面倒だが、冒険者ギルドまで連れて行きゃあ高値で引き取ってくれるぞ」
その言葉に頷いたのはヴィルナさんだ。
双剣を構えてシュンッとタウロスのツノを斬る。
くるくると剣を回し鞘に戻すと、かがんでそのツノを拾った。
「ああ、これはいいな」
目の高さまで持ち上げたヴィルナさんは、斬ったツノをじっくりと見た。
ツノを折られたタウロスは、もう後ろ脚で蹴って威嚇するのはやめて、大人しくなっていた。
よく見ると、大人しければ、可愛くておいしそう……?
あ、おいしいは余計だった。
「へえ。肉はよく食べるけど、野生のタウロスは初めて見たよ」
「そうねぇ。イゼル砦のあたりにはいないし、街道にもあまり現れないものね」
アルにーさまはそんなタウロスの姿を珍しそうに見ている。私を抱きしめたままのアマンダさんは、なぜか私の髪を撫でていた。
「タウロスは魔物といっても、普段は大人しい性質だからな。わざわざ結界のある街道には出てこねぇよ。……今は嬢ちゃんが白いから襲ってきたんだろうな」
確かに私の髪は銀色で白猫ローブは真っ白だ。
じゃあ白猫ローブは脱いだ方がいいのかな。でもこれが一番防御力あるし、一番可愛いから、どうしよう。
「この辺りにはタウロスがたくさんいるんですか?」
「ここよりもう少し南だな。白い服さえ着てなけりゃあ、襲ってはこねぇよ」
そう言うフランクさんの目が、悪だくみを思いついたかのようにキラーンと光った。
頭の上のルアンは「キュッ?」と首を傾げている。
「なあ嬢ちゃん。もうちょっと魔法の練習をしてみねぇか?」
少し先に群れを見つけたフランクさんは、私を囮にして何頭ものタウロスを捕まえた。
ツノの折れたタウロスの群れを引き連れて馬に乗っていると、まるで牛追いにでもなった気分だ。
これで投げ縄を持ってたら、立派なカウボーイだよね。
「もうっ。いくら知り合いのタウロス牧場が近くにあるからって、こんなにたくさん捕まえることないじゃない」
アマンダさんが呆れたようにタウロスの群れを見る。
「いやぁ、おもしれぇくらいに捕まえられるからなぁ。つい調子に乗っちまった。それに嬢ちゃんも新しい魔法に慣れただろ?」
確かに何度もステルス・サークルを使うことで、どれくらい効果時間があるのかとか、罠をしかけるタイミングみたいなものを覚えることができた。
倒してないからレベルは上がらないけど、使い方が分かったからいいかな。
これでいつでもステルス・サークルを使えるね!
「アルゴも、どうして早く止めなかったの?」
「いや……。ユーリが楽しそうだったからね」
「それはそうだけど。でも限度ってものがあるでしょう? 連れて行くのも大変じゃない」
そう言うアマンダさんの視線の先には、獣人だからか動物の扱いに慣れているヴィルナさんと、牧羊犬ならぬ
「戻れ」
「にゃうー。にゃんっ」
ノアールは子猫の姿のままだったけど、さすがに魔物の王になるはずだったダーク・パンサーだってことが分かるのか、タウロスたちは大人しく言うことを聞いていた。
さすがノアール。
そのままフランクさんの知りあいの牧場にタウロスを連れて行くと、大歓待をされた。
そして牛肉祭りは凄く楽しかったです。
おいしかった~♪
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