第102話 魔物の棲む迷宮
ダンジョン――それは洞窟や塔の中に広がる、魔物の棲む迷宮のことだ。先に進むにつれ強い魔物が現れ、それを倒すことによって素材を手に入れられる。
稀に宝箱の中から強い武器や防具を得られ、最奥にいるボスを倒すと、そこでしか手に入らない貴重な宝を得ることができるとも言われている。
だから一攫千金を求める者や、腕試しをしたい者はダンジョンへと向かうのだ。
カリンさんによると、ダンジョンって精霊界に近くなった場所に魔素がたまってできるものみたいだけどね。
しかも最奥のボスの強さは、ボスが貯めこんだ魔素に比例して変わるらしい。
つまり最初のボスが一番強くて、倒していくうちに段々弱体化していくんだけど、しばらく倒されなかったボスはまた魔素を蓄えてるから強くなるんだって。
土の迷宮は五層しかないからすぐに倒されちゃうけど、もっと大きなダンジョンだと、そもそもボスのところまで辿りつけないことがあるから、それで倒されなくて強くなっちゃうみたい。
その倒しやすいと言われている土の迷宮のボスですら、八年前の魔の氾濫の時に冒険者が全て魔物の王との戦いに行って放置されていた後は、倒すのにかなり手こずったみたい。
「じゃあボスがそのまま倒されないで放置されてたら、凄く強くなっちゃうってことですか?」
「ええ。たまに新しいダンジョンが発見されることがあるんだけど、一層か二層の浅いダンジョンならともかく、五層以上になるまで発見されなかったダンジョンのボスはなかなか倒せないんですって」
「だから最初のボスが一番強いって言われてるんですね」
「その通りよ」
ダンジョンが浅いうちにボスを倒せば、そこまで強くならないってことかぁ。
あれ? ダンジョンって成長するの?
「ダンジョンって層が増えていくんですか?」
「まだはっきりとは解明されてないらしいんだけど、魔素が溜まりすぎるとダンジョンが大崩落を起こして、それで新しい層ができるって言われてるわね」
そうなんだ。知らなかった!
「確かカリンのお兄さんがその研究をしていたと思うわ」
「カリンさんのお兄さんですか?」
カリンさんのお兄さんかぁ。普通……の、人じゃなさそうだよね。あのカリンさんのお兄さんだもんね。
「ところで、ボスって、倒されてからどれくらいで復活するんですか?」
「特に決まってはいないのよ」
なるほど。そこら辺はランダムなのかな。
「今は土の迷宮にボスっているんでしょうか?」
「土の迷宮は五層の浅い迷宮だし、すぐにボスが復活するから、そこは気にしなくてもいいんじゃないかしら。鍵が出るといいわね」
「はいっ」
土の迷宮くらいの規模だと、冒険者たちも最奥のボスを倒すのにそれほど苦労はしない。
低層はスライムとかホーン・ラビットみたいな弱い魔物しか出てこないから、冒険者になったばかりの人にも人気のダンジョンなんだとか。
それに私だけじゃなくて、アマンダさんとアルにーさまとフランクさんとヴィルナさんとカリンさんと、それからノアールもいるから、ボスを倒せるかどうかっていう心配はないんだけど、ボスを倒して本当に『賢者の塔の鍵』が出るかどうかが不安なんだよね。
出てくれるといいなぁ。
「リヴァイアサンが出てきた洞窟みたいに隠し部屋があったとしても、攻略するのに二、三日あれば大丈夫だと思うわ」
「じゃあ食べ物も一週間分を用意しておけば大丈夫ですね」
ダンジョンにこもって、何が一番大変かっていうと、寝る場所と食事だ。寝る場所は宝箱のあった部屋に簡易ベッドを置けばいいとして、問題は食事だ。
保存食を持っていけばいいんだけど、一日二日ならともかく、それ以上を保存食だけで過ごすなんて耐えられない。
そこで出番なのは私のアイテムボックスだ。この世界の人たちが持っている収納袋とは違って状態維持の効果もあるから、できたてホヤホヤの料理を保存しておけるのである。
ただ問題は、料理一つに対して枠を一つ使ってしまうこと。
一応、初期状態からは拡張してあってたくさん持てるようにはなってるけど、できれば同じ種類の物は重ねておきたいところなんだよね。
そこで考えたのが、トレイに食事をセットして、朝食・昼食・夕食という種類に分けてアイテムボックスに入れておくこと。
トレイに乗っている食事の種類は同じにしないと重ならないから、例えば朝食なら、朝食Aセットはふかふかパンとソーセージとスクランブルエッグで、朝食Bセットはちょっと固めのパンとハムと目玉焼き、という風に分けるのである。
朝食と昼食は二セット、夕食は三セットを用意したから、一週間程度ならこれで飽きることなく食事を楽しめる。
どうしてお皿は重ねることができないのにトレーに乗せた食事セットは重ねられるのかは分からないんだけど、でもそれでだいぶ食事への不安はなくなった。
しかもアボットの町で酒場を開いているルイーズさんのお店で作ってもらった食事だから、味のほうもバッチリだ。
フランクさんは、自分用に『タウロスの灼熱ジャーキー』『オオクチバシのロティサリー』を頼んでたけど、あれってお酒のつまみじゃないのかなぁ。確かにおいしそうだったけども。
一番びっくりしたのはカリンさんだ。確かにエルフは森の恵みを好むらしいけど、それにしても見事にキノコばっかり用意してた。
「見てもよし、食べてもよし」
って言うから、どういう意味なのかなと思ったら、キノコって形がちょっとスライムに似てるから、それで見てるだけでも楽しいみたい。
……さすがスライムマニアだよね。
その点、生肉大好きなヴィルナさんとか甘いものに目のないアマンダさんは普通だよね。
アルにーさまは、特に好き嫌いがないみたい。私と一緒だね。えへへ。
「後はおやつくらいかな」
「ユーリちゃん、遊びに行くんじゃないのよ」
「えへへ」
ピクニックじゃないけど、でも、同じくらいわくわくドキドキしてる。
私はそっと胸を抑えた。
さあ、準備ができたらいよいよ土の迷宮へ出発だ!
おー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます