第84話 名探偵には助手がつきもの
「どうだ。魔鉱石は取れたか?」
どこかで聞いたことのある声だ。えーっと、どこだっけ。
思い出せないでいると、どこか飄々とした声が答えた。
「あんまりうまくありませんねぇ」
「子供たちはどうだ」
「新しく連れて来ないと駄目かもしれませんよ。どんどん弱ってきてます」
「あんまりこの町で派手にやるんじゃないぞ。他の町で狙え」
「大丈夫ですよ。王都のスラムならいくらでも子供をさらって来れますから。それより町長、報酬のほうは、たんまりはずんでもらえるんでしょうね」
「分かっておる」
町長!?
そういえば、これってこの町の町長の、えーっと……ボーワンって人の声だ!
という事は、町長がこの事件の黒幕!?
二人の会話を聞いたまーくんが飛び出して行こうとするのを押しとどめて、私は口に人差し指を当てた。
ここは、もうちょっと情報収集するところだよ、ワトソンくん……じゃない、まーくん。
「それに今この町にはイゼル砦の騎士が来てるって話ですからねぇ。しばらくは大人しくしといた方がいいんじゃないですか」
「しかし、レーニエ伯爵が視察に来られるのだ。それまでには量産体制を整えておかねばならん」
今、レーニエ伯爵って言った?
もしかして、この事件の黒幕って、あの腹黒ぽんぽこ狸オヤジなの!?
「じゃあ、そのレーニエ伯爵に子供を調達してもらったらどうです?」
「馬鹿者! そんな事を言ったら、こっちの首が危なくなるわい」
焦る町長に、レーニエ伯爵はこの事件に関係してないんだって分かった。
「え~。つまり、町長が独断で危ない橋を渡っているんですかい?」
「……別に危ない橋など渡っておらん」
「まあ、俺たちは報酬さえもらえればいいんですけどねぇ」
もう一人は、喋ってる感じからするとならず者とか傭兵とか、なんだかアウトローっぽい雰囲気がする。
ちょっと見てみたい気もするけど、我慢我慢。
推理小説とかだと、ここで好奇心に負けて顔を出して犯人に見つかっちゃうんだよね。
ふふん。名探偵ユーリは、そんなヘマはしませんよ~。
町長たちが立ち去ったみたいなので、私とまーくんはそろりと石の陰から顔を出す。
「町長が誘拐犯だったんですね……」
「どうしよう、弱ってきてるって言ってた」
「早く助けに行きましょう」
とりあえず町長が去った気配がしたけど、もう一人の男はまだその場に残っている。
枯れ井戸のあたりを見張ってるんだろうか。
ということは、そこに子供たちがいる可能性が高いよね。
となると、ここは強行突破しかないかな。
そう覚悟していたら、井戸の中から声がした。
見張りの男はそれを聞くと、井戸の中へ縄梯子を下ろす。
しばらく様子を見ていると、井戸の中から子供たちが出てきた。
「みんな……!」
押し殺した声でまーくんが呟く。
ほっ。やっぱりここにさらわれた子供たちがいるんだ。見つかって良かった。
見つからないように息をひそめたまま様子をうかがう。
男は子供たちから何かを受け取った後、イライラした様子でまた子供たちを井戸の中へと追いやった。そして子供たちが全員下りたのを確認してから縄梯子を引き上げた。
それから受け取った銀色の塊を持ってどこかに行く。
「今のうちだよ!」
まーくんの手を取って、急いで枯れ井戸の方へ行く。
でも、どうしよう。縄梯子を下ろしてそのままにしておいたら、さっきの見張りが戻ってきた時に私たちが来たのがバレちゃう。
一応、フランクさんたちは私が迷子になったからと、探すついでにこの石切り場まで来てくれることになっているけど、できれば先にあの子たちと合流しておきたい。
カモフラージュするには、この縄梯子をまた上にあげておけばいいんだけど……。う~ん。
「そうだ。ねえノアール。私たちがこの下に着いたら、縄梯子を上に引き上げてくれる?」
「そういえば、その猫ってホントはもっとデカいんだっけ」
「うん」
小さいノアールなら無理かもしれないけど、大きくなれば大丈夫なはず。
やってくれるか聞いたら、ノアールは「にゃん」と鳴いて私のローブの中から出てきた。
「じゃあさっきの見張りが来ない間に急いでここを下りてみんなを助けよう」
「でも戻る時はどうするんだよ」
「大丈夫。プルンにフランクさんたちを呼んできてもらうから。ねっ」
ノアールに続いて白猫ローブから飛び降りたプルンは、ぷるるる、と震えた。
やる気満々だね!
「プルン、お願いね」
地面に下りたプルンは、小さなスライムとは思えない速さで元来た道を戻っていく。
「気をつけてね」
「お前こそ、ちびなんだから落ちるなよ」
始めはまーくんが先に下りるって言ったんだけど、それは断固として拒否した。だって私が着てるのはスカートなんだもん。まーくんが上を見たら丸見えになっちゃう。
ゆっくり下りると、ノアールに合図をする。ノアールは器用に縄梯子を引き上げた後、また小さな子猫の姿になって、井戸の壁を蹴りながら下りて来る。
枯れ井戸の底には魔鉱石を使った小さなランタンが置かれていて、周りの様子がよく分かった。
井戸の底に小さな穴が開いていて、どうやら子供たちはこの奥に行かされているらしい。
私たちくらいの子供が四つん這いになってやっと通れるくらいの小さな穴だ。
「この先にみんないるのか」
「行こう!」
「うん」
「にゃあ」
ついてきてねと鳴いたノアールを先頭に、私たちは小さな穴の向こうへと進んでいった。
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