第83話 SS・さあみんなで「メリークリスマス!」
そういえば、そろそろクリスマスなんだなぁと思った。
この世界にはそもそもキリスト教がないからサンタクロースもクリスマスケーキも当然ないんだけど、やっぱり年末に何もイベントがないっていうのは寂しいかも。
エリュシアオンラインは季節ごとのイベントが豊富だったから、もちろんクリスマスの時はゲームの中もクリスマス一色になってたんだよね。
各国の首都はイルミネーションで飾られて、住宅街にも大きなクリスマスツリーが飾られていた。
当然クエストも実装されていて、去年は盗まれたプレゼントの袋を取り返せっていうクエストだった。
クエストクリアの報酬は衣装なんだけど、普通のサンタ服・ドレスっぽいサンタ服・ミニスカサンタ服・天使・トナカイの五つの中から好きな服を選べたの。
そのクエストは何回も受注できるタイプだったから、当然衣装を全部揃えるまでがんばった。
でもって、その衣装をベッドの上に並べているんだけども……。
うん。ちょうど五人分あるよね!
そうだ! いいこと考えちゃった~。えへへ。
「というわけで、みんなでこれを着てくださいね~」
「なあに、これ」
アマンダさんがトナカイの服……というか着ぐるみを手に取ってマジマジと見ている。どういう作りになっているのか謎なんだけど、トナカイの立派な角はピンと見事に広がってるし、着ぐるみの表面はモフモフしていて最高の手触りなんだよね。
もちろんノアールの毛並みには負けるけど。
「えーっと、これはサンタクロースという妖精の一族で、一年に一度、良い子にプレゼントをしてくれるんです」
ちょっと違うけど、エリュシアオンラインでの設定はこうだったはず。サンタさんの背中には小さな透明の羽があったしね。
「小娘の国には妖精が住んでいるのか」
「いえ。サンタさんだけが住む国があって、そこからやって来るんですよ。空を飛べるトナカイ……この動物ですね。このトナカイが引く橇に乗ったサンタさんが、良い子にプレゼントをくれます」
「羽もないのに空を飛ぶ魔獣がいるのか。……つまり魔法で飛んでいるということか。ふむ。実に興味深い」
カリンさんもしげしげとトナカイの着ぐるみを見る。その横でヴィルナさんが目をキラキラさせて、更にしっぽをブンブンと振っている。
ヴィルナさん、モフモフ好きだから気に入ったみたい。
「これ……ヴィルナさんが着てみますか?」
「良いのかっ」
凄く前のめりになって聞かれる。
「もちろんです」
そう言って差し出すと、ヴィルナさんはトナカイの着ぐるみに頬を当ててそのモフモフ具合を堪能していた。
「つまり、これを着て孤児院にプレゼントを配りに行くってことかい?」
アルにーさまに聞かれた私は、くるっと振り返る。
えーっと。アルにーさまは水色の髪の色だから……天使様のコスプレ……じゃない、衣装が似合いそうだなぁ。
「そうです!」
「確かに孤児院への寄付は貴族の務めだし、変わった趣向で喜ばれるかもしれないね」
ノブレスオブリージュって言うんだっけ。貴族は定期的に孤児院への寄付をしなくちゃいけないらしくて、今回アルにーさまからその話を聞いた私は、サンタになって孤児院訪問を思いついたの。
せっかくだから子供たちにもっと喜んで欲しいもんね。
うんうんと勢いよく首を縦に振って、私はすかさず天使の衣装をアルにーさまに渡した。
えっ、こっち? って顔をしたけど、そこは気がつかなかった振りをする。
だって残ってるのってドレスとミニスカと天使とサンタ衣装だもん。アルにーさまがサンタ衣装をゲットしちゃったら、残った衣装のどれかをフランクさんが着るんだよ?
フランクさんの天使様は……ちょっと想像したくない……かな。
サンタさんは似合いそうっていうか、エリュシアオンラインのサンタクロースって、なぜかムキムキだったんだよね。だからイメージ通りなの。
あとはミニスカとドレスだけど……アマンダさんとカリンさん、どっちが何を着ても良さそう。
「アマンダさんとカリンさんはどうしますか?」
「私はこんなものは着ないぞ」
カリンさんはそう言うと思ってました。でもこのサンタ服、実はカリンさん向けの凄い機能がついているのです!
「この服を着ると、スライムが寄ってきますよ」
「なぜそのことを早く言わぬ。すぐに寄こさぬか」
デスヨネー。
元々、クリスマスのクエストがスライムを倒してプレゼントのカケラを集めようっていうのだったから、この服を着て町の外に出ると、色んなスライムが寄ってくるの。
私もそんな機能があるのをすっかり忘れてたんだけど、さっき服を出してみたら『スライムに人気のサンタ服』って書いてあったから、これだーって思っちゃった。えへへ。
手元にあったサンタ服はミニスカだけどいいのかなぁ。……まあ、カリンさんにとってはスライムが寄ってくる服なら何でもいいのかも。
となると、後はドレスサンタがアマンダさんだよね。
残念ながら子供服サイズの衣装はなかったから私はそのまま参加だけど、私はちびっこだし、プレゼントをもらう方だよねっ。
そして着替えてきたみなさんは……。
「なんだか赤すぎないか、これ」
うわぁ。フランクさんのサンタさん、ゲームのサンタさんとそっくり!
ムッキムキだけど、これも案外似合ってるかも。
「モフモフだな」
ヴィルナさんのトナカイは、ふわもこで素敵!
「新種のスライムはどこだ」
カリンさんのミニスカサンタも可愛い。
「全身が情熱の赤ね。ふふっ」
アマンダさんのドレスサンタは、ゴージャスさがマシマシになってる。
「剣がないと落ち着かないな」
そしてアルにーさまは……。
「うわぁ……。天使様だぁ……」
端正な顔立ちが本物の天使様みたーい。まさかこんなにピッタリだとは……。
背中の羽がバサーっと広がらないかなぁ。
「ユーリの着る衣装はないのかい?」
「あ、えと。サイズがなくて」
「そうなんだね」
少し考えたアルにーさまは、おいで、と私を呼んで、いきなり抱きあげた。
「ふわぁっ」
びっくりして声を上げると、優しい茶色の瞳が私を見る。
「じゃあユーリはこのフードを被って、僕の眷属の役だよ」
そういえば、エリュシアオンラインでクリスマスのクエストを受注するのって、白猫からじゃなかったっけ。
ということは、私がその白猫の役目?
うわぁ。なんて偶然なの。
「それで、子供たちにプレゼントをあげる時には何ていうんだっけ」
「メリー・クリスマスです」
「そうか。じゃあみんなで言ってみよう」
アルにーさまの提案で、声を揃える。
せーの。
「メリー・クリスマス!」
それからエリュシアでは、良い子にしていると一年に一度、マッチョな妖精のサンタさんがやってきてプレゼントをくれる、という話が広まっていったのは、また別のお話。
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