第82話 枯れ井戸に潜入せよ!
とにかく行方不明の子の手がかりをつかむためにも、一度枯れ井戸まで行こうという話になった。
ただ許可がないと石切り場には入れないから、まずは私とマークっていう男の子の二人でこっそり中に入りこんで、それから私を探しにアルにーさまたちがやってくる、という手はずになっている。
「ユーリちゃんたちだけで、大丈夫かしら」
アマンダさんが心配そうにしているので、私は大丈夫と笑って白猫ローブを軽く叩いた。
「ノアールもプルンも一緒だから大丈夫ですよ」
実は、ローブの中には小さくなったノアールとプルンが隠れてるの。町の中ではずっと大きい姿のままだったから、まさか小さくなったノアールがこんなところにいるとは思わないよね。いざという時には二匹が助けてくれるんだって。
それに私、賢者だもん。攻撃魔法も回復魔法も、ドーンと来い! です。
「ノアールとプルン、ユーリをよろしくね」
「にゃあ」
ぷるるん。
アルにーさまに頼まれた二匹は、任せて、というように返事をした。
えへへ。なんだか二匹が私のナイトみたいだよね。
「嬢ちゃんも坊主も、気をつけてな。危なくなったら逃げるんだぞ」
フランクさんに声をかけられたマーク君は、ちょっと照れ臭そうに頷いた。
「はい」
「じゃあ行ってきます」
マーク君と手をつないだ私は、石切り場の方へと向かう。
アボットの村からカラーラの山の石切り場までは、一本の道が通っていた。道の両脇には魔物除けの魔法陣を組みこんだ石柱が建っているから、魔物に襲われる心配はない。
「なあ」
マーク君に声をかけられた私は、なんだろうと横を向く。オレンジ色の目がじっと私を見つめていた。
「あのさ、お前のそのペット……じゃなくて家族の猫だけどさ。キュアが使えるようになったら捕まえることができるのか?」
ペットと言われてムッとしたら、マーク君は慌てて言い直した。
それにしても、私たちの話を大人しく聞いてるだけかと思ったら、結構鋭いなぁ。
「う~ん。スライムだったらすぐ捕まえられると思うけど、ノアールみたいな子を捕まえるのは無理じゃないかなぁ」
だって従魔にできるのって、変異種の子供だもんね。あと、魔の氾濫の時以外には見つけられないんじゃないかと思う。
でもそれを聞いたマーク君は、白くなるほど唇をかみしめた。
「でも、オレ、強くなりたいんだ……」
そっかぁ。そうだよね。家族を助けるにしても、子供の力じゃ何もできないもんね。
だけどキュアができても、強くはなれないんじゃないかな。フランクさんみたいな戦う神官さんならともかく。
って、そうだ! フランクさんを目指せばいいじゃない。
「だったら、フランクさんを目指すといいですよ。戦う神官さんで強いですよ」
「……神官が戦っていいのか?」
「う~ん。どうなんだろう。でも、こーんな大きい甲冑虫を倒しちゃうくらい強いです」
左手でこ~んな、と示すとマーク君は「はあ? そんなデカいのいるわけないじゃん」と信じなかった。
「本当ですよ! ここのギルドにツノを引き取ってもらったから、今度聞いてみてください」
「嘘くせぇなぁ。でもアイツ確かに強そうだったな。……そうか、戦う神官か」
おお、マーク君がやる気になってますよ。
というか、マーク君って呼びにくいなぁ。もう、まーくんでいいよね!
「まーくんも、フランクさんみたいに強い神官になってくださいね」
「お、おう」
激励されて嬉しかったのか、まーくんの耳がちょっぴり赤くなっている。
がんばれー、と心の中で応援していると、まーくんが立ち止まった。
「この先は石切り場の入り口で見張りがいるから、こっちから入るんだ」
道から離れると、そこにはたくさんのスライムが、ぽよよんぽよよんと飛び跳ねていた。
カリンさんが見たら狂喜乱舞しそうだなぁ。
「スライムはこっちから攻撃しなければ襲ってこないから」
私がスライムをじっと見ていると、怖がってると思ったのかまーくんが握った手にぎゅっと力をこめた。
「はい。もし強い魔物が襲ってきたら、私が守ってあげますね!」
「え……。いや、そこはオレが守るとこだと思うんだけど……」
「こう見えても、私、強いんです」
むん、と力こぶを作る。
あ、でも私、魔法しか使えないから力こぶなんかできなかった。てへへ。
「さあ、行きましょう」
こういう時は、必殺・笑ってごまかせ!
「あ、うん……」
よーし、納得してくれたね!
まーくんが案内してくれたのは、石切り場を囲む柵に開いた小さな隙間だった。小さな子供くらいしか通れそうにない。
「いつも、ここから中に入って遊んでたんだ」
まーくんに続いて私も四つん這いになって隙間を
片手でノアールとプルンがいるところを支えると、大丈夫だよというように「にゃっ」とノアールの小さな鳴き声が聞こえた。
うわぁ。ここが石切り場なんだぁ。
四角く切られた色んな大きさの大理石が、そこかしこに積んである。
それだけでもう壮観で、なんだか古代の遺跡に迷いこんだみたいな気分になっちゃうかも。
「こっち」
キョロキョロしているとまーくんに手を引かれた。
「この先に枯れ井戸があるんだ……。待って。誰かいる」
もうすぐ枯れ井戸に着くというところで、まーくんが急に立ち止まった。
この先に誰かいるみたい。
慌てて二人で大きな大理石の陰に隠れる。
何人かが話してるみたいだけど、どこかで聞いたことのある声が混ざっているような……。
あれ? この声って――
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