第81話 迷探偵ユーリと名探偵カリンさん

 アボットの町の教会に行くと、あいにくロウ神官は不在だった。久しぶりに会えるのを楽しみにしていたフランクさんは残念そうだ。


「今日は、ロウ神官は朝から出かけてるんだ。

「へえ。どこへ出かけたんだい?」

「町長さんのとこだって言ってた」

「ボーワンのとこ、ねぇ」


 そして教会へはなぜかルイーズさんもついてきています。


 なんでも、その新種かもしれないスライムに関心があるんだとか。情報を売りにしてる人だから、新しい物が発見されたら、それがどんな物か把握しておきたいのかもしれないね。


「少年。早くスライムを見せるのだ」


 待ちきれなくなったカリンさんが少年をせかす。


「それで行方不明になった俺の家族が見つかるんなら」

「おそらく」

「分かった。ちょっとここで待ってて」


 そう言って走っていく男の子を見送ると、アマンダさんが心配そうに振り返る。


「カリン、大丈夫なの? あんなこと言って」

「何がだ?」

「だから家族が見つかるなんて断言しちゃっていいの?」

「む? 行方不明の子供など、すぐ見つかるであろう?」


 あっさり断言するカリンさんに、アマンダさんだけでなく、私たち全員が驚く。


「……え。どういうこと?」


 私たちの質問に、面倒くさがって短く説明することも多いカリンさんだけど、今日は機嫌がいいのかていねいに説明してくれた。


「そもそも、結界の中にスライムが入ってくるというのがおかしいと思わぬか」

「それは、そうね」

「ではなぜ入ってきたのか。おそらく町の外ということもあって、石切り場に張られた結界は地表のみに作用するものであったのだろう。枯れ井戸に結界の外からスライムが入り込み、残っていた水を飲んだ。おそらくその水は、ロウ神官がキュアの魔法で浄化していたはず。つまり……私のマクシミリアン二世と同じことが起こったのだ」


 えーっと。つまり、キュアした水を飲んで従魔になったのと同じ現象ってことかな。

 だけど、それじゃ説明がつかないよね。


「でもそれならロウ神官の従魔になるはずじゃない?」


 うん。私もそう思う。

 でも、ロウ神官じゃなくてあの男の子が飼ってるんだよね?


 っていうか、それって、神官じゃなくても従魔を持てるってことにならないかな。さすがにノアールみたいな強い魔物は無理だろうけど、スライムとかホーンラビットくらいなら、従魔にできそう。


「うむ。だがそうならなかったのには、何かしらの原因があるのだろう。実に興味深い」

「ちょっと待って。でもそうすると――」


 私と同じ疑問を持ったアマンダさんが聞こうとしたけど、ハッとして口を閉じる。その視線の先にはルイーズさんがいた。


 そういえば、ルイーズさんは情報屋さんだったよね。そしたら、なぜ魔物が懐くかを教えちゃダメなのかもしれない。


「へえ。フランクの頭の上の可愛い子ちゃんは、そうやってゲットしたのかい。おもしろいねぇ」

「きゅっ」


 自分のことだって分かったのか、ルアンが返事をする。


「とすると、こっちのお嬢ちゃんもってことかねぇ」

「ルイーズ。詮索するのはそこまでにしときな。仕事に障るぜ」

「もちろん分かってるけど。まぁ、好奇心ってことさ。詳しく教えてくれる気は――ないみたいだね」


 ルイーズさんは肩をすくめると、それ以上の追及は止めたみたいだった。

 その間もカリンさんはスライムの予想に余念がない。


「スライムの色が灰色がかっているということは、おそらく水と土以外の物を摂取したのだろうな。アボットの町の名産である大理石かもしれぬが……それならば白くなるはずだ。いずれにしても、それが何か分かれば子供が見つかる手がかりになるはずだ」

「……ちょっと待って。手がかり?」


 アマンダさんの疑問に、カリンさんはどうして分からないのだとでも言いたげな視線を向ける。


 なんだかこれじゃ、ちびっこ探偵じゃなくて、カリンさんが探偵役になっちゃってるよ。


「もちろん。その何かを見つけたから、子供が行方不明になったからに決まっているだろう」


 えええええええ!?

 そうなの?


 目をぱちくりしながらアルにーさまを見ると、頷いた。

 フランクさんは頬をかきながら男の子が去った扉を見つめていて、ヴィルナさんは腕を組んだまま目をつぶっている。


 ということは、カリン探偵の推理が正解?


 そしてカリンさんの名推理は、男の子が戻ってきたことで中断された。


「おおおおおおおおお。こ、これはっ。私が嗅いだことのない匂い! ということは、念願の新種のスライムではないか! とうとう……とうとう見つけたぞ! どれどれ。なるほど、外見は確かに土スライムに近いが、灰色が混ざっているな。そしてこの匂い……。冷たさの中に硬質さを感じる。むむ。やはり大理石ではなく、鉱石の匂いに近いな。だがこれは――」


 さすがカリンさん。男の子が戻ってきた途端、その手に持った箱へ飛びついてスライムの匂いをかいでいる。

 そしてああでもないこうでもないと言いながら、スライムを調べる。


「ふむふむ、なるほど。これは興味深い。まさかこのような場所にあるとはな」

「カリン、分かったの?」

「うむ。子供たちが行方不明になった原因もはっきりした」


 カリンさんはビン底メガネをキランと光らせる。

 おおおおおおおおお。凄い。カリンさん、本当に名探偵だった!


「もったいぶってないで教えて!」


 アマンダさんの言葉にカリンさんは平たい胸を張った。


「このスライムが摂取したのは、魔鉱石だ」

「ええええっ。魔鉱石!?」

「この匂いは魔鉱石に他ならぬ」


 それってあの、レーニエ伯爵の領地でしか採れない、魔石の代わりになる貴重な鉱石じゃないっけ?

 それがこのアボットの町で採れるってこと?


 え。でも、子供たちの失踪と、どういう関係があるの!?

 分かんな~い!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る