第80話 ベッドの下の隠し場所
「そうだね。フランクは凄い神官だよ。行方不明の子供もちゃんと探してくれるから、何があったのか話してくれるかい?」
アルにーさまが優しく言うと、男の子はこっくりと頷いた。
さすがアルにーさま、男の子の信頼度が急上昇してますよ!
その隣ではカリンさんが「新種のスライムが!」とかモゴモゴ言ってるけど、ヴィルナさんに口を抑えられて叫べないみたい。
……ヴィルナさん、がんばってそのまま抑えててくださいね。
「最初は一緒に遊んでる肉屋のとこのトーマスがいなくなったんだ。でもおじさんが、トーマスはしばらく親戚のところに行ってるって言うから、毎日遊んでる俺たちにあいさつもしないで行っちゃうなんて薄情なヤツだよな、なんてみんなで話してた」
「そのトーマスっていう子とは仲が良かったのかな?」
「うん。俺たちと遊ぶのってあいつくらいだったからさ……」
後で聞いた話だけど、町の子供はあんまり教会の子供とは遊ばないらしい。子供といっても親の仕事の手伝いをしている子が多いから、遊ぶ時間がないんだそうだ。
トーマスという子も以前は肉屋をて手伝っていたらしいけど、最近は教会の子と一緒に遊ぶようになったみたい。
「その後に教会の子たちがいなくなったのかな?」
「うん。順番に一人ずついなくなったんだ」
「なるほど……」
アルにーさまは少し考えると、男の子に違う質問をする。
「君たちはいつもどこで遊んでいたんだい?」
でもそのアルにーさまの質問には答えず、男の子は口をつぐんで視線をそらした。
あ、これ多分、遊んじゃいけないところで遊んでたから言えないんだ。
そして私のその予想は、しっかり当たっていた。
「最近は石切り場に入りこんでたね。まったく、いつの時代も子供っていうのは、やっちゃいけないって言われてることをやりたがるもんさ」
「ロウ神官には絶対に言わないで!」
「口止めするなら、情報をお寄こし」
足を組んだルイーズさんは、ニイッと赤い唇でほほ笑んだ。
「子供相手に大人げねぇな」
「なに言ってるんだい。この子たちには親がいないんだからね。今のうちから世間の荒波ってもんを教えといたほうがいいのさ。あんたもそうだったろ」
ルイーズさんに言いこめられたフランクさんは、むすっとしたまま腕を組んだ。それに対してルイーズさんは肩をすくめる。
「やれやれ、相変わらず子供みたいな性格だね。年をとって少しは成長したかと思えば……。まあいいさ。続きをお話し」
「井戸の中に小石を入れて遊んでたんだ。落ちた時に音がするんだけど、音がしない時があってさ。なんでだろうって井戸の中を覗いてみたら、底のほうで何か動いてる気がしてさ。それで、調べてみようってことで、置いてあった水汲み用のバケツを下ろしてみたんだ。そしたら、バケツの中からこれくらいの変な色のスライムが出てきたんだ」
スライム、という言葉を聞いたとたんに、カリンさんがヴィルナさんの制止を振り切って立ち上がった。
「やはりスライムを持っていたのだな!? どのようなスライムだった? 色は? 形は? 大きさはどれくらいだ!? 今すぐに見せよ!」
「ちょっと待ってカリン。落ち着いてね。少年が怯えちゃってるじゃないの。それにしても本当にスライムがいたとはびっくりよ。カリンの鼻ってどうなってるのかしら」
男の子に突進しようとするカリンさんを、アマンダさんが苦笑しながら席に戻す。ヴィルナさんも手伝って、二人がかりだ。
「ロウ神官に危ないところで遊んでたのを黙ってて欲しいんだろう? だったら、どんなスライムだったのか教えな」
ルイーズさんはそんなカリンさんをチラリと横目で見ながら、男の子に質問をする。
「町の外にいる土スライムに似てるんだけど、ちょっと灰色がかってる」
「おお、それはきっと新種のスライムだ!」
男の子が話し始めると、カリンさんは興奮して再び立ち上がった。
「そこの変な帽子をかぶってる娘。それ以上騒ぐなら、店から叩きだすよ」
「変な帽子だと?――」
「どうやら叩きだされたいようだねぇ」
カリンさんはお気に入りのスライム帽子を変だって言われてムッとした様子だったけど、叩きだすと脅されて大人しくなった。
スライム帽子より、新種のスライムへの情熱が勝ったらしい。
カリンさんらしいなぁ。
「そうそう、それでいい。……それで、井戸っていうのはどこの井戸だい?」
「石切り場の枯れ井戸だよ」
「あそこか。……でも、おかしいねぇ。井戸の周りには必ず魔物除けの魔法陣が設置してあるから、たとえスライムといえども、魔物は出ないはずなんだけど」
「なんかね、井戸の中にいたんだ。大きさはこれくらいだった」
そう言うと、男の子は手でスライムの大きさを表した。
男の子が見つけたスライムって、プルンと同じくらいかも。
私は思わず腰につけたスライムポーチを撫でる。
プルン、ちゃ~んと大人しくしてて良い子だなぁ。後で出してあげるから、もうちょっと我慢してね。
「それが新種のスライムなのだな! 今すぐ枯れ井戸とやらに行くぞ!」
「まあ、お待ち。石切り場は許可のある者しか入れないよ。子供ならともかく、この大人数でゾロゾロ行ったらすぐに追い払われちまう」
「しかし、新種のスライムが待っておるのだぞ!」
両手を握りしめて力説するカリンさんに、ルイーズさんは「だからお待ちと言っているだろう」とたしなめる。
「新種かどうかは分からないけど、そのスライム、実はこっそり隠してあるんだ」
身を乗り出すカリンさんの迫力に圧倒されながらも、男の子は頷いた。
「少年、でかしたぞ! それでそのスライムはどこにいる!?」
男の子は、言おうかどうしようか迷っているみたいだったけど、フランクさんと目が合うと、口を開く決心をしたみたいだった。
「あの……。俺のベッドの下に隠してあるんだ。ほんとは絶対内緒にしようってみんなで決めたんだけど、そっちのおじさんは俺の兄貴分なんだろ? だから特別に見せてやるよ!」
えええっ。
ベッドの下って、本人は隠してるつもりでも、すぐバレる隠し場所ナンバーワンじゃないんですか!?
いずれにしても、このスライムが何やら鍵を握っているんじゃないかな。
絶対怪しいよね。
よ~し。これからスライムの謎を調べて、事件を解決するぞ。おー!
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