第75話 町長のお出迎え
アボットの町は、グラハム村より南東の位置にある。その更に東にはカラーラという大きな山があって、そこでは良質な石が採れるらしい。
石が採れる山ってどんなのだろうと思っていたら、遠くに山が見えてきた。
「ああ、カラーラの山が見えてきたね」
アルにーさまがその山を指さす。
「アルにーさま。山が白いです!」
アレス王国は春から夏にかけての季節しかない国だけど、山の頂上には雪が降るのかな。
でも山の頂上じゃなくて、真ん中が白いのはなぜだろう?
「カラーラで採れる石は白いからね。大理石とも呼ばれているよ」
なるほど~。石といっても大理石なんだ。だから山肌が白くなってるんだね。雪じゃなかったよ……。
「カラーラの石を加工しているのがアボットの町なんだ。だからアボットの町は全て大理石でできているらしいよ」
おぉ~。それは何だか凄そう。
カラーラの白い山肌が垂直に切られていて、四角い形でデコボコしているのが分かるようになるくらい進むと、前方に大きな大理石でできた門が見えた。
うわぁ。なんだか凄くゴージャスな町だぁ。
門の向こうには白い壁とオレンジの屋根で統一された町並みが広がっていて、まるで絵葉書のような景色だ。
門の手前には門番さんが二人いて、ピカピカの鎧を着て立っている。
馬から下りた私たちが近づくと「止まれ」と声がかかった。
「身分を示せ」
その言葉に、アルにーさまとアマンダさんとフランクさんの三人が首元からネックレスのような物を出した。
グラハムの村ではこんなの見せなかったのに、ずいぶん厳しいんだな、と思って、そういえばこの町では最近子供が消えるんだったと思いだした。
それならこんな風に厳戒態勢になっちゃうのも無理ないよね。
「おお。イゼル砦の騎士様でいらっしゃいますか。こんなに早く来て頂けるとはありがたい」
ネックレスの先には銀色のプレートがついていて、そこにイゼル砦の騎士だって書かれているみたい。
ほ~。あんなのがあるんだね。
「いや、今は休暇中で友人と王都に向かうところなのです。途中で魔物を倒し、素材を冒険者ギルドに買い取って頂こうかと思って立ち寄ったのですよ。イゼル砦に騎士の派遣を要請しているのなら、そろそろ落ち着いてくる頃ですし、こちらへ向かうと思います」
「なんと、そうでしたか……」
心なしか肩を落とす門番さんに、アルにーさまは爽やかな笑みを向けた。
そして「ところで……」と言葉を続けた。
「冒険者の友人と、それから魔獣に素材を持たせているのですが、一緒に町へ入ってよろしいですか?」
「もちろんです。どうぞどうぞ」
「ではお言葉に甘えて」
アルにーさまの目配せに頷いたアマンダさんが、再び騎乗して元来た道を戻ってヴィルナさんたちの方へと向かう。
しばらくして皆が戻ってくると、門番さんの目が驚きに見開かれ、口があんぐりと開いた。
「ダ、ダークパンサー!?」
指さす先は大きいサイズのノアールだ。
でも、ちゃんとアルにーさまは魔獣に素材を持たせてるって言ったもんね。門番さんは馬とか牛に近い魔獣だと思ったかもしれないけど、嘘は言ってないもんね。
「ええ。この子のペットなんです。見かけによらず大人しいですよ」
「このちっちゃい子の!?」
更に驚く門番さんに、アルにーさまは頷く。
「こんなに小さな頃から一緒なので、とてもよくなついています」
こんなに、というところで、アルにーさまは子猫サイズのノアールの大きさを手で示した。
本当かどうかは分からないけど、今、アボットの町では子供が消える事件が起きている。
だからグラハムの村でのようにノアールを子猫サイズのままにしておくより、大きい姿のまま私のそばにいてもらったほうが安全なんじゃないかって話になったんだよね。
ただノアールは強い魔物として名高いダークパンサーだから、大きいサイズだと町の中に入れてもらえないだろう。
そこで、アルにーさまが一計を案じて、門番さんを説得するっていう話になったの。
……言いくるめる、って言った方が正しいかもしれないけど。
「ちょっとお待ちください。上の者に確認を取って参ります」
慌ててもう一人の門番さんが町の中へ走っていく。
ありゃりゃ。そう簡単に町の中へは入れてくれないかぁ。残念。
「むむ。この辺りのスライムは石は石でも大理石を食べるかもしれぬ。……とすると、土スライムではない新種のスライムがいるのではないか!? くんくんくんくん。……ううむ、特に新種の匂いはせんな。では採掘場に行けばいるかもしれないぞ」
今にも採掘場に向かいそうなカリンさんの首根っこをヴィルナさんが掴む。
おお。二人とも馬に乗ってるのに、ヴィルナさん器用だなぁ。
「何をする。離せ!」
「ヴィルナ。しっかり捕まえてろよー。採掘場みてぇなとこは、無断で入ると捕まるからな」
フランクさんに声をかけられたヴィルナさんはしっかりと頷いて、カリンさんをつかむ力を強くした。
「なるほど。採掘場に入るには許可がいるのかな?」
アルにーさまがにこやかな笑顔を浮かべたまま門番さんに話しかける。
騎士であるアルにーさまに丁寧に話しかけられて、門番さんは恐縮したように答えた。
「はい。領主さまの許可が必要となります」
「この町の領主は、ウィラード子爵だったかな。町長の名前までは知らないけれど」
「町長様のお名前は、ボーワン様です」
門番さんが説明してくれた直後、町の中から立派な身なりをした人が兵士を従えて出て来た。そしてアルにーさまの姿を見て破顔する。
「おお、これはこれは騎士様。お待ちしておりました」
ん?
「いや、魔の氾濫のすぐ後ということで、騎士様たちがいらっしゃるのはもう少し後だと思っていたのですが、まさかこんなに早く対応して頂けるとはありがたい。ささ、どうぞこちらへおいでください」
あれ? もしかして町長さん、私たちが派遣されてやってきた騎士たちだと思ってる?
まさかね、だって私みたいな小さい子もいるのに、そんなこと思わないよね?
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