ちびっこ賢者、初めての迷宮へ
第74話 アボットの町に出発です
宿屋の酒蔵をカラにする勢いでお酒を飲んでいたフランクさんとヴィルナさんだけど、二日酔いでフラフラかと思っていたら、思ったよりもちゃんとしていた。
ヴィルナさんはどんなにお酒を飲んでも酔わないそうで、フランクさんは二日酔いをいつものようにキュアで治してしまったんだとか。
「アボットの町は、石切りの巨人で有名だよな」
フランクさんが、村のはずれまで見送りに来たカールさんに話しかける。
「領主との賭けに負けた巨人が、一晩で石切り場から石を運んで町を造ったっていう伝説ですね」
「巨人か。そんなのがいるのかねぇ」
首を傾げるフランクさんに、カリンさんが答える。
「アボットの町の始まりか。聞いたことがあるな」
おお。さすがエルフ。大昔の話には詳しいね。
「へえ。やっぱり本当に巨人がいたのか?」
「いや。土属性の魔法使いとの賭けに勝って一晩で町を造らせたと聞いた」
「かーっ。夢のねえ話だな」
「ふん。現実などそんなものだ」
あっさり断言するカリンさんにみんなが苦笑する。
「いずれにせよ、アボットの町までちょっくら行ってみるか」
そう言うと、フランクさんはカールさんたちに向き直った。
「お前さんたち夫婦の道を、唯一神の栄光が照らすことを祈ろう」
綺麗なお辞儀を見せるフランクさんは、いつもとは違ってちょっぴり真面目な神官さんの顔をしていた。
「今回は世話になったな。……さてと。じゃあ行くか」
いつものようにニカッと笑って、フランクさんは馬上の人になった。
「しかし、このツノは運ぶのが大変だな。ノアールがいなかったら、どうなってたことか」
しばらく進むと、フランクさんは並走する大きいサイズのノアールを見て感心するように言った。
甲冑虫のツノをアボットの町の冒険者ギルドで換金するのは決まったけど、どうやって運ぶかっていうのがまた問題で。
結局、ノアールに大きくなってもらって、その背中にくくりつけて運んでもらうことになった。
ノアールは荷運び用の魔獣だってことにすれば問題ないしね。
これならアボットの町にもそのまま入れるんじゃないかな。
……カールさんだけはちょっと疑わしそうな顔をしてたけど、何も言わずにいてくれたし、大丈夫だよね。うん。
「ノアールがいなかったら、フランクが運ぶしかないわね」
「こんなデカいのはさすがになぁ」
「その無駄についた筋肉を活用する、いい機会じゃないの」
アマンダさんに腕のあたりを見られたフランクさんは、「ふむ」と考えこむ顔になった。
「修業って考えりゃあ、俺が運ぶのもアリか?」
「あまりの怪しさに、アボットの町に入るのを拒否されるんじゃないかな」
アルにーさまの疑問に、私もうんうんと頷く。
こういう時に、荷馬車があれば便利なんだけどなぁ。
カールさんが荷馬車を手配してくれるって言ってくれたんだけど、返すためにグラハムの村には戻ってこれないだろうし、ずっと荷馬車を使うかどうかは分からないから、気持ちだけありがたく受け取った。
ゲームだと、課金で買える、パーティーメンバー全員が乗れる豪華な馬車があって、山だろうと谷だろうとデコボコ道だろうと構わずに進めたんだけど。
さすがにこの世界にそんな便利な馬車はないだろうし。
アルにーさまの馬に乗せてもらって、流れていく景色を眺める。
ああ、ゲームでもこんな景色を見たなぁ。
凄く懐かしくて、凄く切ない。
ゲームの世界と同じ景色なのに、ここはゲームじゃないから……。
ダメダメ。こんな後ろ向きじゃ。
レベルをもっと上げて、賢者の塔に行って元の世界に帰るんだから!
元気出していくぞー! おー!
あ、そうだ。レベルといえば、昨日リヴァイアサンを倒したから、きっと上がってるはず。
ボスを倒した後は、レベルが上がってるかどうかチェックするのが楽しみだったんだよね。魔の氾濫の後はバタバタしていてすっかり忘れちゃってたから、今回はちゃんとチェックしておかないと。
今なら他にすることもないしね。確認、確認。
「ステータス・オープン」
アルにーさまとフランクさんがアボットの町について話している間に、こっそりと小さな声で呟く。
するといつもの半透明のウィンドウが現れた。
ユーリ・クジョウ。八歳。賢者LV.33
HP 342
MP 399
所持スキル 魔法 100
回復 100
錬金 100
従魔 75
称号
魔法を極めし者
回復を極めし者
異世界よりのはぐれ人
幸運を招く少女
幸運が宿りし少女
豹王の友
やった! レベルが3つも上がってる。さすがリヴァイアサンだね。経験値をいっぱいくれたみたい。
でも、うーん。MPが399だって。ちょっと惜しい。あと1MPあれば400でキリがいいのに。
覚えてる魔法は特にないなぁ。残念。もっとレベルを上げたら何か覚えるといいけど。
従魔スキルの方は順調に上がってるけど、まだ仲間にできる魔物は二匹までみたい。
そのうちレベルが100になったら三匹くらい仲間にできるのかも。
それはそれで楽しそうだけど、お世話できるかな……。
まあ、いざとなったらノアールが手伝ってくれるから大丈夫かも。プルンのお世話はノアールがしてくれてるし、って。
……あれ? ノアールって体をブラッシングするだけで、プルンはご飯の飴をあげるだけなような気が……二匹とも、あんまり手間がかかってないかも。
あれれ?
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