第37話 アルにーさま
「えっと……。これからよろしくお願いします」
そう言って頭をペコリと下げてから、はたと考える。
これからアルゴさんは私のお兄さんになるんだよね? そしたら、アルゴさんって呼ぶのは変じゃないかな?
お兄さん……じゃ、他人行儀だし、貴族なんだから「お兄ちゃん」もおかしいよね。そうすると「お兄様」って呼ぶのが一番いいのかなぁ?
「こちらこそよろしく、ユーリちゃん。あぁ、妹になるんだし、ユーリって呼び捨てにしてもいいかな?」
「もちろんです。えーっと、アルゴお兄ちゃま……」
あううううううう。
お兄ちゃんとお兄様が混ざっちゃったあああああ。
子供みたいで恥ずかしい。あ、でも今子供だからいいのかな。
いや、よくない、よくない。すっごく恥ずかしいよぉぉぉぉ。
恥ずかしくて、そっと上目づかいで見てみると、アルゴさんは顔を真っ赤にして口の辺りを手で覆っていた。
「妹とは……こんなに可愛いものなのか……」
そう呟くアルゴさんの頭を、レオンさんばりに冷たい目をしたアマンダさんがベシッっと叩いた。
「正気に戻りなさいよ、アルゴ。分かってると思うけど、ユーリちゃんは妹なんだからね。い・も・う・と! 節度を持った態度で接しなさい!」
「もちろんだ。せっかくこんなに可愛い妹ができたんだから、悪い虫なんか近づけさせるものか」
「――そう意味じゃないんだけど……まあ、いいわ。この調子なら、レーニエ伯爵にはしっかり対処してくれるだろうし」
「当たり前じゃないか! ユーリはまだこんなに小さいんだ。婚約なんて早すぎる!」
そう叫んだアルゴさんに、ぎゅうっと抱きしめられる。
ま、待って! 膝の上のノアールとプルンが潰れちゃう。
「にゃあ! にゃあにゃあ!」
ノアールは鳴いて抗議しながら私の肩に登り、ちょうど私の頭のあたりを抱きかかえているアルゴさんの手を引っかいた。
「うわ、ちょっと待ってくれ、ノアール。僕は別にユーリちゃんをいじめてる訳じゃないよ。むしろ妹として大事にすると約束する」
「にゃあん、にゃあにゃあ」
「もちろん何があろうと守るさ。ノアールもそうだろう? だからお互いに協力して――」
「にゃお。にゃにゃん」
……なんだか、アルゴさんがノアールと語り合っている。
アルゴさん、いつの間にノアールと会話できるようになったんだろう?
あ、もうアルゴさんじゃなくてお兄ちゃんって呼ばないといけないんだっけ。
う~ん。お兄ちゃんとお兄様、どっちがいいのかなぁ。
やっぱり貴族だから「お兄様」だよね。でもアルゴお兄様ってちょっと言いにくいなぁ。
そしたら、ちょっと省略して――
「アルにーさま」
そう口にすると、ノアールと言い争っていたアルゴさんの動きがピタっと止まった。
「アルゴさん?」
「いや。そっちじゃなくて」
「アルにーさま?」
「も……もう一度言ってもらえないかい?」
「アルにーさま」
にっこり笑って言うと、またぎゅうううううっと抱きしめられた。
うわぁ。だからちょっと待って。プルンが潰れちゃうぅぅぅ。
「もう。いい加減にしなさぁぁぁぁぁい!」
アマンダさんの叫び声と同時に、スパーンと私の頭上でとってもいい音がした。
「うにゃああ!」
「イタタタタ。だからノアール、誤解だって」
「アルゴ、ユーリちゃんが痛がってるじゃない。離しなさい!」
アルゴさんはアマンダさんに頭を叩かれて、さらにノアールに手を引っかかれても私を離さなかった。
「アルにーさま、離してください。プルンがつぶれちゃいますよぉ」
「にゃうにゃう!」
「……ああ、すまない」
慌てて離れたアルゴさん……じゃなくて、アルにーさまは、私の膝の上でぷるぷるしているプルンを軽くつついた。
その手の甲がノアールに引っかかれて少し赤くなっているのに気がついて、ヒールをかける。
「アルにーさまにヒール」
指先を手の甲に当ててヒールすると、銀色の光がそのままアルにーさまの手に吸いこまれていった。
「ありがとう、ユーリ」
優しく微笑まれて、私も嬉しくなる。
えへへ。本物の兄妹みたい。
「ユーリちゃん。アルゴと兄妹になっても、遠慮なく私にも頼ってね。アルゴに相談できないような事が、これからあるかもしれないし」
「ああ、いいね。アマンダにそうしてもらえると、僕も安心だ」
「はいっ、アマンダさん。何かあったら、よろしくお願いします」
私にとって、やっぱりアマンダさんはお姉さんみたいな存在だと思うから、いざという時に頼れるのは、本当に心強い。
アマンダさん、アルゴさ……じゃなくて、アルにーさま。今は頼ってばっかりだけど……。
でも、二人の妹にふさわしくなれるように、私も立派な賢者にならなくっちゃ。
ね、ノアールとプルン。一緒にがんばろう!
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