第29話 温泉につかりた~い

「ちょっとカリン、何してるのよっ」


 アマンダさんとヴィルナさんが、慌てて服を脱ごうとするカリンさんを止める。でも、カリンさんはなぜ止められているのか分かっていないみたいで、不服そうに口をへの字にしていた。


「このオンセンとやらには入れるのだろう? だったらその効能を試してみなくてはな」

「だからって、ここにはアルゴもフランクもいるのよ? 少しは考えなさい!」


 うんうん。アルゴさんは苦笑していて、フランクさんは腕を組んで目のやり場に困っている。

 でも口から出てくるのは、憎まれ口だ。


「俺はちっとも構わねぇぜ。カリンだけと言わず、アマンダもヴィルナもオンセンに入ったらどうだ? 俺たちが見張りをしてやるから安心してくれていいぜ」

「フランクが一番安心できないわよっ」


 プリプリ怒るアマンダさんに、アルゴさんが「だったら……」と声をかける。


「だったら僕たちがまず、入ってみればいいんじゃないかな。体に悪いものならフランクがキュアで治してくれるだろうし」


 あ、そっか。

 思わず、温泉だー、って浮かれちゃったけど、この世界の温泉が日本のものと同じかどうかなんて分からないよね。


 でも、さっきお湯に手を入れても状態異常にはならなかったから、きっと大丈夫じゃないかなぁ。


 それに……。温泉に入りたい。

 だってこの世界に来てから、体を綺麗にするのはアマンダさんにかけてもらうクリーンの魔法だけで、一回もお風呂に入ってないんだもの。

 せっかく温泉が見つかったから、絶対につかりたーい!


「さっき手を入れたけど大丈夫でしたよ? だから私も入りたいです!」

「ちょっと待って。ユーリちゃんまで何を言うの……」


 抗議するアマンダさんの横で、ヴィルナさんが私に賛成してくれる。


「そういえば、ウルグ獣王国にも怪我が早く治る泉があると聞いたことがある」

「ヴィルナ……あなたもオンセンに入りたいって言うんじゃないでしょうね?」


 低く尋ねるアマンダさんだけど、ヴィルナさんのしっぽがユラユラと揺れていて、それが答えになっていた。三対一になったアマンダさんは、ハァと大きなため息をつく。


「皆がオンセンに入りたいのは分かったわ。でもアルゴもフランクもいるじゃない」

「だから俺は構わねぇって――痛っ。何すんだよ、アルゴ」


 フランクさんの腕を、アルゴさんが音がするほど強く叩く。


「……そうだな、僕たちは周囲の警戒をすればいいんじゃないかな? といっても、ノアールがいれば大丈夫だとは思うけど」

「ノアール、ですか?」

「うん。ノアールが大きくなれば、その気配に怯えてよほど強い魔物でなければ襲ってこないと思うよ?」


 さ、さすがノアール!

 可愛くて賢い上に、護衛までできるとは!

 えっと、これってなんて言うんだろう。番犬じゃなくて、番にゃん?


「む……。ではノアールがいたら、スライムが逃げるということか?」


 カリンさんが瓶底メガネをキラリと光らせた。


「どうだろう。今の大きさならそれほど魔獣の気配が強くないから、スライムは逃げないんじゃないかな」

「ふむ。ならば良かろう」


 あっさり納得したカリンさんは、「よし、それではオンセンに入るぞ!」と宣言をした。





 さて、温泉に入るにあたり、ノアールが大きくなって番にゃんになってくれるのが決定したんだけど、アルゴさんとフランクさんもこの周囲を警戒してくるそうです。

 魔物じゃなくて、うっかりイゼル砦の他の皆さんにバッタリ会ったら困るしね。


 でも温泉に入るといっても、さすがに全裸は何かあった時に困ってしまう。カリンさんは脱ぐ気まんまんだったけど。

 下着で入ろうかと話しているアマンダさんとヴィルナさんに、私は良い物があります、と提案をした。


 そう!

 それは、ハイビスカスバレッタと一緒にイベントでもらった、水着で~す!

 しかも、各種取り揃ってるんだよ~。


 アマンダさんには赤いビキニを。

 カリンさんには水色のワンピースを。

 そしてヴィルナさんには白いタンキニを。

 私は……残ってたのが、スクール水着だったんで、それを。

 ……サイズが合うのがそれだけだった、っていうのもあるんだけども……。


 着替えは木の枝にパレオをかけて目隠しにしたから大丈夫!

 カリンさんは、服を脱ぐのが大変そうなので、とりあえず先にアマンダさんと私で温泉に入る事になりました!


 わ~い。温泉、温泉。

 大きくなったノアールが、温泉のそばに寝そべっている。その背中の上では、プルンとマクシミリアン二世が仲良くぷるぷるしている。

 はう~。可愛い。


「まず私が先に入ってみるわね」


 スタイル抜群のアマンダさんは、ゆっくりとつま先から温泉に入っていった。見る限り、状態異常にはかかっていなさそう。


「それほど深さはないわね。これならユーリちゃんも入れそう」


 湯気の立つ温泉につかるアマンダさんの前に浮かぶメロン……。あ、違う。お胸様。

 うわぁ。胸が大きいと、こんな風に浮かぶんだ。


 長い髪をバレッタでアップにしているからうなじに後れ毛が張りついているんだけど、それがまた何とも色っぽい。


 ふわぁぁぁぁぁ。

 温泉に入る前からのぼせそうです!

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