第30話 エルフだったの!?

 気を取り直して私も温泉に入ってみる。


「ふわぁぁぁ。温泉だぁ」


 その気持ちよさに、思わず声が漏れてしまう。

 手の平でお湯をすくってみると、ほんのり白い色をしている。おお~。なんだか凄い効果がありそう。


「ユーリちゃん、こっちに座るといいわよ」


 アマンダさんに手招きされて近寄ると、少しだけ出っ張っている場所があった。

 なるほど。ここに座れば、肩までお湯につかっても溺れないってことなんだね。


「わぁ。ありがとうございます」

「ユーリちゃんは小さいから、溺れたら大変でしょう?」

「立ってれば大丈夫ですよ~」

「それじゃ疲れちゃうもの」


 確かに、疲れをいやすために温泉に入って、逆に疲れちゃうのは本末転倒かもしれない。


 ん~。でも久しぶりの温泉はいいなぁ。


 思いっきり手足を伸ばしていると、支度のできたカリンさんとヴィルナさんがやってきた。


 うわぁ。ヴィルナさんの浅黒い肌に白いタンキニが似合ってる……。しかも、しっぽが良く見える。

 しっぽ……。触りたいなぁ。

 だ……だめだめ。獣人さんのしっぽは家族か恋人じゃないと触っちゃダメなんだから、我慢我慢。

 後で、ノアールのしっぽを堪能させてもらおうっと。


 内心の呟きが聞こえたのか、ノアールが「にぎゃぁ」と鳴いて、大きなしっぽがばったんばったんと地面を叩いている。

 うん。やっぱりノアールのもふもふが一番だね!


 私の心の中で呟いた言葉が聞こえたのか、ノアールのしっぽが機嫌良さそうに揺れ始める。

 せっかくしっぽも大きくなったんだし、後でいっぱいモフらせてもらおうっと。


「カリン……。帽子は脱いだらどうなの?」


 呆れたように言うアマンダさんに、私もうんうんと頷く。

 だって温泉に入るのに、スライム帽子をかぶったままなんだもん。

 ワンピースの水着は……うん。カリンさんの体型には合ってる……んじゃないかな。


「オンセンに入っても頭は濡れないだろう? この帽子は私のお気に入りなのだ」

「確かに濡れないかもしれないけど、湿気で型崩れするわよ」


 カリンさんは温泉から立ち昇る湯気を見て、アマンダさんを見て、そしてまた湯気をみた。


「む……。脱いだ方がいいか?」


 カリンさんは後ろを振り返って、アマンダさんではなく着替えを手伝ってくれたヴィルナさんに確認する。


「私もそう思う」

「ふむ。では脱ごう」


 あっさり納得すると、カリンさんは帽子を脱いだ。ついでに、湯気で曇るからと、瓶底メガネもはずす。


 ええええええええええっ。

 ちょ、ちょっと待って。

 誰この美少女!

 それに耳がとがってるよ?

 って、もしかしてカリンさんってエルフだったのおおおおお!?


 目を丸くしてカリンさんを見ていると、アマンダさんがそれに気づいた。


「あら、ユーリちゃん、どうしたの?」

「カリンさんってエルフだったんですか?」

「そうよ。知らなかった? さっきここに来るまでに木々が道を作ってたのに驚いていなかったから、てっきりもう知っているのかと思っていたわ」


 木々が道を作る?

 えーっと、あの獣道みたいなのって、カリンさんのおかげでできたの?


 あ、そっか。言霊の魔法で植物に命令してたのかな。

 全然気がつかなかった。


 というより、アルゴさんに抱っこされたまま目をつぶってたから見えてなかったんだけども。


「エルフと言えば、美男美女で神秘的な種族だと思っていたんだけど……。はぁ」


 アマンダさんが深いため息をつく。

 確かに、今まで持っていたエルフのイメージが、ガラガラと崩れていきます……。


「ナルルースはエルフっぽいけど、カリンはねぇ」


 肩にお湯をかけながらため息をつくカリンさんは、目のやり場に困るほど色っぽい。


「自分で言うのもなんだが、森から出るエルフは変わり者だぞ?」

「えっ。じゃあ、あのナルルースも?」


 ヴィルナさんが所属する『黎明の探求者』の魔法使いとして活躍するナルルースさんは、ちょっと冷たい美貌の、いかにもエルフという超然とした雰囲気の人なんだけど……。カリンさんと同じくらい変わってるのかな?


「うむ。あやつが森を出たのはな、世界中の酒を飲みたいからなのだぞ」

「お酒を!?」

「食事も摂らず、酒ばかり飲んでいるからな。あやつの体には、血ではなく、実は酒が流れていると聞いても驚かぬ」


 なんだか、せっかくのエルフさんなのに、大酒飲みとスライムマニアしかいないなんてショック。そりゃあ確かに二人とも美人だけど……エルフって、もっと神秘的な存在だと思ってましたよ……。


 うわぁぁぁん。

 私のエルフへの憧れを返してぇぇぇぇぇ。

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