第28話 新種スライム発見!?

 マクシミリアン二世が『お手』を覚えて盛り上がる中、突然カリンさんがスライムを手に乗せたまま立ち上がった。


「む……におう。におうぞ」


 鼻をヒクヒクさせるカリンさんの視線の向こうには、いつものように頭の上にルアンを乗せているフランクさんが……。

 ま、まさか……。


「やだ、フランク。あなた、したでしょ!」


 私を抱えたまま、さっとフランクさんから距離を取るアマンダさん。

 フランクさんの横にいたヴィルナさんも、さりげなく移動している。


「なっ、何言ってやがんだよアマンダ。俺じゃねぇぞ」

「きゅうっ」


 ルアンもフランクさんの頭の上で抗議している。

 でもカリンさんは鼻をヒクヒクさせたままフランクさんに近づいた。


「むむ。このにおいは!」

「やっぱりフランクが臭うんじゃないの。ちゃんとクリーンの魔法で洗浄してるの?」


 更に距離を取るアマンダさんに、フランクさんは「誤解だ!」と叫ぶ。

 さらに一歩下がるアマンダさんとは逆に、カリンさんは鼻を鳴らしながらフランクさんの前に立って――素通りした。


「えっ?」


 あれ? フランクさんが臭うんじゃないの?


「むむむ。なんだこの匂いは。未だかつて嗅いだことのない匂いだぞ。火か……? いや、少し違うな。鼻の奥がツンとするようなこの匂いは――もしや新種のスライムではないのか!? ううむ。これは興味深い」


 新種のスライム?

 凄い。見つかったら大発見なんじゃないかな。


 カリンさんは森の中へとどんどん入っていった。不思議なことに、獣道のような道とも思えない道なのに、人が通れる程度の幅がある。たまに木の枝が邪魔をするけど、ちょっと屈めば通れない事もない。


「ちょっとカリン、どこまで行くのよ」

「む。まだ先か」

「……全然聞いてないわね」


 だけどアマンダさんみたいな長い髪だと、枝に髪が引っかかってしまうみたいで、度々立ち止まってしまっている。髪ゴムみたいなのがあればいいんだろうけど……。


 あっ。

 私は猫のポシェット中を探して、目的の物を取り出した。


 じゃーん! ハイビスカスバレッタ、ホワイトバージョン!


 『エリュシアオンライン』で『真夏のビーチパーティー』っていうイベントをやった時にもらったアイテムなんだけど、水着に合わせたアクセだからバレッタだったんだよね。赤か白を選べたんだけど、私は白にしたの。

 これをつければ、髪の毛がまとまるんじゃないかな。


 ビキニの水着ももらって、私には似合わないから着てないんだけど、これもいつかアマンダさんに……。


「アマンダさん、これをつけてみてください」

「あら、なあに?」


 バレッタを受け取ったアマンダさんは、目を瞬いてそれを見つめる。使い方が分からないみたいだったから、アマンダさんにしゃがんでもらって、私が髪をまとめてあげた。


「こんな感じで使うんですけど、どうですか?」

「凄くいいわね! でもこれ、貴重な物なんじゃないの?」

「大丈夫です。同じ物をたくさん持ってますから」


 イベント期間中にアイテムを集めるともらえたんだけど、実は十個以上持ってるんだよね。

 それに白いハイビスカスがアマンダさんに似合ってるから、使ってくれると嬉しいな。


「こうやってつけるんです。ほら、凄く似合ってますよ。ねっ。アルゴさんもそう思いますよね?」

「ああ。良く似合ってるね。後でゲオルグにも見せてあげるといいんじゃないかな」


 最後尾を務めてくれているアルゴさんがそう言うと、アマンダさんは華やかに微笑む。


「ふふっ。そうかしら。ユーリちゃんもそう思う?」

「もちろんです!」


 だって、アマンダさんはこんなに綺麗で優しくて、理想の女性だもん。

 いいなぁ。私もアマンダさんみたいな女の人になりたい。


「アマンダ、博士が何か見つけたようだぞ」


 ほっこりしていると、カリンさん、フランクさんと一緒に先に行っていたヴィルナさんが戻ってきた。


「何を見つけたの?」

「……見た方が早い」


 急いでヴィルナさんの後を追いかけるけど、ちびっこだから中々早く行けない。


「あっ」


 草に足を取られて転びそうになったけど、後ろからアルゴさんが支えてくれた。


「足元が良くないね。僕が抱えていこう」


 そしてそのまま……。

 えええええ。お姫様抱っこぉぉぉぉ!?


「えっ。ちょ、ちょっと待ってくださぁい!」

「あら、アルゴ。気が利くじゃない。急ぐわよ」


 チラっと振り返ったアマンダさんは、お姫様抱っこをされた私を見て、走るスピードを上げる。

 それに合わせてアルゴさんもスピードを上げて――


 うわーん。風圧で目が空けていられなーい。


 目をぎゅっとつぶっていると、なんだか鼻の奥がツンとするような臭いが漂ってくる。

 あれ? これってどこかでかいだような……。


 アルゴさんが立ち止まったのを感じて、目を開けると、そこには森の中とは思えない光景が広がっていた。


 森が開けたその先に、ぽつんと小さな泉が見える。その周りは岩で囲まれていて、その隙間からいくつも火が立ち昇っている。


「おかしい。確かにかいだことのないスライムの匂いがしたはずなのだが……」


 そう言ってカリンさんは、四つん這いになって地面の匂いを嗅ぎ始めた。


「……スライムの匂い?」


 そいうえばカリンさんはよく「スライムの匂いがする」って言うけど、プルンを嗅いでも匂いなんてしなかったよ?

 この世界では皆スライムの匂いが分かるのかな。


「カリンの鼻は特殊なのよ。なぜかスライムの匂いをかぎ分けるのよねぇ」

「ふわぁ」


 そうなんだ。……なんだか、凄い、ような?


 カリンさんは四つん這いになったまま泉の側まで行った。私たちもその後について行く。


「あれっ? 湯気が立ってる」


 泉に手をつけると、暖かい。

 あっ。そうか。どこかで嗅いだことがあると思ってたけど、硫黄の匂い?


「これって温泉ですよ!」

「オンセン?」


 カリンさんが同じように泉に手を入れながら聞く。


「暖かい泉の事です。日本では、温泉に入って体を温めるんですよ。場所によっては病気にも効くとか」

「ほう。そんな効果があるのか」

「この温泉にそんな効果があるかどうかは分かりませんけど、癒されるのだけは確かです」

「ふむ……。どうやらスライムは見当たらぬようだし、この温泉とやらに入ってみるか」


 って、カリンさん、いきなり脱ぎ始めようとするのはやめてくださいいいいい。

 ここにはフランクさんとアルゴさんもいるんですよおおおおおお!

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