第20話魔物の王
さて、今日はアルゴさんに教わった、アレス王国の騎士団のおさらいをします!
アレス王国には三つの騎士団があります。
近衛騎士団、王国騎士団、辺境騎士団の三つね。
そのうち、近衛騎士団は王族を守り、王国騎士団は王国全土を、そして辺境騎士団は辺境の地を守る。
そしてイゼル砦はまさにこの辺境騎士団に属しているのですね~。
実はレオンさんはイゼル砦の団長というだけでなく、辺境騎士団全体の団長でもあるんだそうです。
ただ辺境騎士団の騎士は魔の氾濫の後に王都へ戻る事が多いので、実際には辺境騎士団の騎士は、王国騎士団にも所属しているそうです。
王国騎士団はさらに三つに分かれていて、
双鷲騎士団(そうしゅうきしだん) 旗色は赤で双頭の鷲の絵が描いてある
猛虎騎士団(もうこきしだん) 旗色は黄で虎の絵が描いてある
牙狼騎士団(がろうきしだん) 旗色は青で狼の絵が描いてある
と、なっているんだそうです。
アレス国の人たちは、それぞれの騎士団を旗の色で言ったりもするみたいですよ。赤の騎士団に所属してます、とか。
そして今回の魔の氾濫で、王都の守りとして近衛騎士団と猛虎騎士団は残ってますが、残りの二つの騎士団が、イゼル・ジュレイ・リトリスのそれぞれの砦にやってきたのだそうです。
ふ~。ちゃんと覚えてます。
良かった良かった。
この騎士団、貴族の男子は必ずどこかに所属しなくちゃいけないそうで、それでこれだけ大量の騎士さんたちがいるみたいです。
騎士さんたちは位の高い人と女性は宿舎を使ってますが、それ以外は広場にテントを張ってそこで寝起きしてます。
冒険者さんたちも続々とイゼル砦にやってきましたが、野営をするのは砦の外です。なんだか差別してるみたいですが、テントを張る場所がないので仕方ありませんよね……
でも冒険者さんたちの野営所は、結構色んな人がいて、まるで異国のようなんですよ!
しかもですね!
さすがに魔族さんはいませんでしたが、ドワーフの剣士さんと獣人の剣士さんとエルフの魔法使いさんがいたんです!
この人たちは人間の神官さんと合わせて四人でパーティー組んでて、エリュシアでも有名なSランクのパーティーみたいです。
なんでも、たまたまアレス王国でクエストをやっていた時に魔の氾濫の報告を受けて、このイゼル砦にやってきたんだそうです。
そしてそして!
なんとですね。そんな有名なパーティーの人たちと、野営所に遊びに行ってるうちに仲良くなって、今ではすっかりお友達になってるんですよ~。
それぞれ皆さん、どんな人たちかと言うとですね~。
ドワーフさんのガザドさんは本当に肌が緑色で、私よりちょっと背が高いくらいの、ずんぐりした体の人です。だけど見かけよりもずっと俊敏で、本来は鍛冶職人だったのが、自分が作った剣の切れ味を試しているうちに、気が付いたら剣士になってたんだって。
獣人さんのヴィルナさんは肌が浅黒くてスタイル抜群の、灰色の耳の女の人でした。狼系の獣人さんらしく、しっぽはとってもとってもモフモフしてました。
ああ……ちょっとだけでもいいから、今度触らせてもらいたいです!
エルフさんのミドリさんはなんていうかもう……エルフってこんなイメージだよね~っていうイメージ通りの美人なお姉さんでした。指輪な物語に出てくる、エルフのお姫様よりずっとずっと綺麗です。
耳はとがってて、嬉しいとぴこぴこするみたいです。なんかノアールと遊んでた時に、何度もぴこぴこ耳を目撃しました。
たった一人だけ人族のシモンさんは、フランクさんの弟子に当たる人だけど、なんていうか……凄く常識人でした。パーティーの他のメンバーが濃い分、皆の仲を調整している苦労人って感じです。
アルゴさんによると、フランクさんの弟子になると、色々と精神的に鍛えられるんだそうです。
う~ん。確かに納得できちゃう気がしますね……
皆さん、最初はなんでこんなちびっこがイゼル砦にいるんだって思ってたみたいですけど、冒険者さんたちの野営所に一人で行くのはダメって禁止されてて、いつもアマンダさんと一緒に行ってたから、多分、私の事をアマンダさんの妹だと思ってるんじゃないかなぁって気がします。
たまたまイゼル砦にお姉ちゃんに会いに来たけど、魔の氾濫が起こっちゃったから帰るに帰れなくなったみたいな……
一応、賢者です。ちゃんと役に立てます!って言ってるんですが、あんまり信じてもらえてない気がします。
ま、まあ。賢者だって言っても、今のところあまり役には立ってないので、全然問題ないんですけどね!
そういえば、妖精族さんもいなかったですよね~。
妖精族はプレイヤーの間では小さい女の子キャラが作れるという事で人気だったんですけど……。
そしてエリュシアオンラインのプレイヤーらしき人もいませんでした。もしかして……って思ってたけど……
はぁ。仕方ないですよね……
魔物については、騎士団の皆さんと冒険者の中でも特に強いランカーと呼ばれる人たちが毎日討伐しに行ってます。
やっぱり日に日に魔物が増えているらしく、魔物の王が現れるのも時間の問題だろうという事でした。
そして……
ついに、その日がやってきました。
最初の知らせは、獣人国に近いリトリスの砦から魔鳥が運んできました。
リトリス砦から近い場所に、ついに魔物の王が現れたのだそうです。
魔物の王は、ゴブリン・キングでした。
「ユーリ、ノアールの様子はどうだ?!」
知らせを受けて騒然とする砦の中を、フランクさんが私のところまでやってきました。
「今のところ、いつもと変わらないです。ルアン君……も、いつも通りですね」
ちょっとだけ大きくなったルアン君は、フランクさんの頭の上からつぶらな黒い瞳を向けて私を見おろしている。うん。相変わらず可愛い。
「ああ。王の出現でこいつらが狂っちまわねぇか心配だったが、今のところは大丈夫みてぇだな」
「はい。良かったです」
「だが安心はするなよ?近くに行ったらどうなるか分からねぇ」
フランクさんは、覚悟だけはしておけ、と、今まで何回も言った言葉を口にします。今までずっと私に言っていたその言葉が、自分にも言い聞かせてるような響きに聞こえてしまうのは、私の気のせいでしょうか……
「ちっ。まったく、こんなにほだされるとは、思ってもみなかったぜ」
「私は分かってましたよ?だってフランクさん、優しいもん」
にっこり笑って言うと、フランクさんが私の頭をくしゃくしゃと撫でました。
「ちびっこが生意気言ってんじぇねぇ」
もー!いつもぐしゃぐしゃになるから、そういう撫で方するのはやめてくださいって言ってるのにー!
「ちびっこじゃないもん!」
抗議した時に、フランクさんの耳がちょっぴり赤くなってるのに気がつきました。
ふふっ。私、精神的には大人ですからね?
最近ちょっと自信がなくなってきたような気もするけど、大人ですからね?
大人なんで、ここは触れないでおいてあげますね!
ふふ~ん。私って、おっとなだも~ん。
「まあ、でもゴブリン・キングだから他の王よりはちったぁマシだろ」
魔の氾濫で一番よく現れるのがゴブリン・キングなんだそうです。他の王に比べてそんなに強い訳ではないらしいので、普通に倒せるだろうって事でした。
「ダーク・パンサーの王じゃなくて、良かったな」
「はいっ」
フランクさんがまた頭をくしゃくしゃと撫でる。
「向こうについたらユーリにはエリア・プロテクト・シールドをかけてもらうだろうが、全員にかかんのかね?」
「やってみないと分からないですけど……対象を、騎士の皆さんと冒険者の皆さん、で指定したら大丈夫じゃないかなぁと……」
「まあ魔の王と戦ってんのは、それくれぇか」
「あとは30分おきにかけ直して、余裕があったら攻撃してって感じかなぁ?」
実際に魔物の王と戦う時、どうすれば皆の力になれるのかを、今までずっと考えてきた。できれば誰一人死んで欲しくないと思うから、それにはどうすればいいのか、って。
エリア・プロテクト・シールドをかけて定期的にエリア・ヒールをする、というのも考えたんだけど、それは目立ちすぎるとアルゴさんに却下されました。
あんまり目立つと、怖い人に浚われるかもしれないんだって……
怖い人って誰だろう……
「攻撃よりも、団長の回復を頼む。俺は下がってきた奴らの回復に専念してぇ」
「じゃあ行く前にパーティー組んでもらうといいですよね」
「だなぁ。準備ができ次第出発するから、その前に呼びにくるわ」
「分かりました!」
フランクさんを見送って、私は足元で大人しくしていたノアールを抱き上げた。
「ノアール……がんばろうね」
「にゃん!」
手も足も震えてるけど……
でも、皆と一緒にゴブリン・キングを倒そうね!
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