第19話もふもふは好きですか

「にゃ~ん。にゃんにゃん」

「きゅう?」

「にゃーお、にゃお」

「きゅうきゅぅ」


 目の前で真っ黒な子猫とピンクのちびうさぎが、かわいらしい鳴き声を披露してくれています。しかも傍から見ていると、ノアールが先輩としてちびうさに色々教えてあげているようです。


 か……可愛い……


 あまりの可愛さに両手を握ってフルフルしていると、同じ態勢のアマンダさんと目が合いました。

 えへへ。


「それにしてもフランクみたいな筋肉ダルマに、あ~んな可愛いうさちゃんが懐くなんて、信じられないわ!」

「フランクさん良い人だから、それが分かったとか?」

「キュアが詠唱できれば誰でも仲間にできると思うわっ。私もキュアが詠唱できたらいいのに」


 地団太を踏みそうな勢いで悔しがっていますね……


「キュアって、やっぱり神官じゃないと覚えられないんでしょうか?」


 この世界ではスキルを取得すれば覚えられそうだけど、キュアとかヒールって別物なのかな~?


「神殿が秘匿してるからね~。一般人には覚えられないのよ」


 ああ、なるほど。普通の人がキュアとかヒールできちゃったら、神官さんのお仕事がなくなっちゃいますもんね~。


 そう考えると、従魔のスキルを持つのって、ゲームで言う上位職に当たるのかな~。神官の職をLV99にして、狩人あたりをLV99にしないと転職できないとか?


 それこそ名前は従魔士で、フランクさんがマスターだったりして~。転職クエやりに来たら、頭にピンクのうさこを乗せてる筋肉モリモリのフランクさんがいるとか、想像しただけで楽しい~。


 まあ、狩人をやったことがない私が従魔スキルを覚えてるって事は、上位職でも何でもないんだろうけどね。


「そういえば、うさちゃんの名前って決まったんですかね~?」


 現在、フランクさんは戻ってきたレオンさんたちと会議をしている。フランクさんの頭にうさちゃんがいると気が散って仕方ないという事で、うさちゃんはテントの中から追い出されてしまったのだ。


 うさちゃんはテントの外できゅうきゅう鳴いていたけど、不憫に思ったらしきノアールに慰められて、今の状況になっている。


「まだみたいだけど、フランクの事だから、ルアンとかつけそうよねぇ」

「え?かっこいい名前じゃないですか、それ」

「お肉屋さんで売られてるウサギ肉の名前だけどね……」

「え……それは……」


 さすがにお肉は可哀想な気が……いや、うん、さっきおいしく夕飯で食べたけども……とっても美味しかったけども……


 目の前にうさちゃんがいる状態でホーン・ラビットのお肉を食べるのは罪悪感があったけど、周りの皆さんは平然と食べてるし、目をつぶって食べてみたら鶏肉みたいでおいしくて……つい、全部食べちゃいました……


「ユーリちゃんだったらどんな名前にした?」

「う~ん。ピンクだからサクラとかさくらもち、とか、モモタとかモモタロウとか?意外なとこで正男とか春乃助とか桃子とか……」

「変わった名前ねぇ」

「ああ、日本語の響きってあんまり馴染みがないかもですね~」


 桜とか、この世界にあるのかな~。あったら見てみたいな~。


「アマンダさんだったらどんな名前つけるんですか?」

「そうねぇ。ラビ、ラヴィ、ローズ、ロセウス、ヴェスタ、ピンク、ボンヌ、クビット、コーラル、ロゼリア、ラパン、クロリー、カール、ロザヴィ、フルト、ボーバル、フラット、ラッツ、ココア、エブナー、アベル、ビットそれから……」


 あう。もう十分です~~~。








 そして会議の結果、うさこの名前はルアンになりました~!

 凄い、アマンダさんの予想通り!

 ウサギ肉ちゃーんって呼ぶのと一緒みたいだけど、ルアンって呼ぶと全然違うよ……ね?


 あ、いや別にうさこの名前を考える為の会議じゃないけどね?!でもなんかタイミングばっちりだったから……てへ。


 会議の内容はもちろん真面目な物で、現在どの魔物が多く発生しているか、でした。

 それによると、比較的多かったのが、ゴブリンとダークパンサーなんだそうです。ゴブリンは元々数が多いから、今の時点で大量発生しているかどうかの断言はできないけど、ダークパンサーは明らかに多いみたいで、もしかしたら今回の魔物の王はダークパンサーから出るかもしれないみたいです。


 もし……魔物の王がダークパンサーから出たとしたら。


 全ての魔物が従う王が現れたら。


 ノアールは、その時でも変わらずに私の隣にいてくれるんだろうか……


 不安はつきないけど、それでも私にできる事は、王が現れるまでにノアールとの絆を強くしていく事くらいだし。

 絶対にこの子を守るんだから!


「ね~、ノアール?」

「にゃあ」

「ずっとずっと一緒だからね~」

「にゃあ~ん」


 私はぎゅうっとノアールを抱きしめて、そのぬくもりをかみしめた。









 今回の魔の森への調査は3日ほどの予定だったので、次の日も騎士さんたちが班に分かれて探索をして、その次の日に砦に帰る事になった。

 帰る時も、私はノアールごとフランクさんの肩に乗って移動した。うさぎのルアンも、すっかり定位置になってるフランクさんの頭の上だ。


「多分、従魔スキルが上がれば複数の魔物を懐かせることができると思うんですけど……」


 私とフランクさんは、砦に帰るまでの間、従魔スキルについての意見交換中です。


「どうやって上げるんだろうなぁ」

「ん~。可愛がるとか?」

「勘弁してくれよ、おい……」

「あとは一緒に戦闘するとかですかね~?」


 エリュシアオンラインじゃないゲームだけど、戦闘に加えると、懐くようになるっていうのがあったはず。


「それなら、まあ……いけるか?」

「ホーン・ラビットって、どうやって戦うんですか?」

「そりゃまあ、角でって、そういやぁ、こいつまだ角生えてねぇじゃないか」

「きゅうっ」


 僕の事?というようにルアンがぴょこんと耳を立てて顔を上げた。

 ピンクのうさぎだから女の子かと思ったけど、ルアン君は男の子でした~。


「それはともかく。問題は魔物の王が現れた時に、こいつらがそっちに影響受けるかどうかだなぁ」

「そうですよね……」


 もしこの子たちが私たちに牙を向いたら……

 ううん、そんな事あるはずない。大丈夫。きっと大丈夫。


「魔物の王って、魔の氾濫が始まってから、どれくらいで生まれるものなんですか?」

「そうだな~。早くて一カ月、遅くて三カ月ってとこか」


 思ったよりも早く、魔物の王って生まれてくるんだ……


「王が倒されると、魔の氾濫は終わるの?」

「ああ。魔物はそれまでみてぇな勢いで増えなくなるな」

「だったら早く王が生まれて、早く倒した方が被害が少ないのかな?」

「ん~。準備してあるならそうだろうなぁ。でも今回は予想より魔の氾濫が早いしなぁ。王都からの騎士団の派遣とかランカー冒険者への依頼なんかも、間に合うのかねぇ」

「冒険者っているんですか?」


 もしかして、プレイヤーが私以外にもいるかもしれない?!

 冒険者ってプレイヤーの事だったりして?!


「ああ、普段から魔物退治して、皮とか牙を売って稼ぇでるな。変異種の場合は心臓が魔石になってる時もあるから、こいつなんかすぐ狩られんだろうなぁ。肉もうまそうだし」

「きゅーっ、きゅーっ」


 フランクさんが「こいつ」って所でルアン君を右手でつついたら、抗議してるみたいな声が上がった。


「にゃーっ!」


 ノアールも怒ったのか、私の腕の中から、フランクさんの顔に向かって猫パンチしてる。


「いててて。何でノアールが怒んだよ」


 そりゃあやっぱり、ルアン君は可愛い弟分だから?


 フランクさん。なるべく早く、ルアン君の事、お肉からペットに昇進させてあげてくださいね……

 

 そんな風に話している間に、やっと砦まで戻りました~。


 ここにいたのは数日なのに、なんだかとっても懐かしい気がします。ノアールが仲間になったり、ルアン君が仲間になったりと、濃い毎日だったしね……


 とりあえず、先にレオンさんとアルゴさんが中に入って、ノアールとルアン君の話をするそうです。

 確かに何も知らせないでいて、砦の中に魔物が入ってきたーってパニックになったら困りますもんね。


 しばらくしてアルゴさんが戻ってきたので、フランクさんの肩に乗ったまま砦の中へ入ります。お留守番してた人たちから向けられる視線に、ぎゅっと身を縮こまらせてしまいます。


「にゃ~う」


 ノアールが私の不安を感じ取ったのか、大丈夫だよ、という風に手の甲をなめました。


「ん……ありがとね、ノアール」


 まあでも時間が経てば、ノアールは普通の子猫にしか見えないし、ルアン君にいたっては可愛いうさぎの赤ちゃんにしか見えないし、で、あっという間に二匹はイゼル砦のペットとして認識されていきました。


 ノアールなんて砦の料理人さんに、こっそりおやつもらってるんですよ!私がちゃんとご飯あげてるのに~。くすん。


 ルアン君は人見知りでフランクさん以外に懐かないけど、やっぱりにゃんこは天性の愛され上手だから仕方ないかな~。


 そしてノアールとルアン君がイゼル砦での暮らしに慣れた頃。

 王都から魔の氾濫に向けてイゼル砦へと出発した、王国の騎士団の皆さんがやってきました。

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