第8話神官さん…?

 どうやら気絶したのは、魔力切れだったからだそうです。


 この世界に来てからの朝の目覚めが、毎回気絶からの回復ってどうなんでしょう?あれから気が付いたら、すっかり朝になっていました。


 さすがに今回は覚醒時にアマンダさんの胸による圧迫はなかったんですが、その代わりもっと凄いのを見ちゃいましたよ。


 筋肉モリモリのプロレスラーかヤクザさんのようなコワモテの……

 神官さんです……


 いや、いきなり目が覚めて、目の前にそんな人がいたらビックリしますよね?

 しかもどこからどう見てもカタギじゃない感じなんですよ。

 彫りが深くてラテン系の顔してて、眉のとこに傷があるんですよ。


 思いっきり悲鳴を上げた私は悪くないと思います!


「まあねぇ。フランクを見てすぐ神官だってわかる人は少ないわねぇ」


 用事があって部屋を出ていたアマンダさんの代わりに、回復魔法を使えるフランクさんが私についていてくれてたんだそうです。私の悲鳴を聞いてすぐに戻ってきてくれたアマンダさんが笑いながら教えてくれました。


「ホント、すみません……」

「ガハハ。いつもの事だ。気にしてねぇよ。お嬢ちゃん、具合はどうだい?」


 フランクさんは見た目の通りに豪快な喋り方をするおじさんでした。

 なんだろう……神官さんって線が細くてメガネかけてる人ってイメージがあったんだけど……イメージが崩れる~~。


「ちょっと頭が重いけど、大丈夫です」

「そうかそうか。まあ多分、魔力切れだろうから、ちっと休めば治るだろうぜ。それより昨日の朝から何も食ってねぇんだろ?アマンダが持ってきたスープでも飲んどけ。まだチビなんだから栄養はしっかり摂らないとな!」


 そう言われてアマンダさんの差し出すスープを受け取る。タマネギと人参みたいなのが入ってるあっさりしたスープは、じんわりと胃にしみわたった。


「おいしい……」

「そう。良かったわ」

「そうだ!アルゴさんは?!」


 アルゴさんとレオンさんは無事だろうか。他の騎士の皆さんは?それにゴブリンの群れはどうなったんだろう。


「ユーリちゃんのおかげでピンピンしてるわ。ゴブリンも殲滅できたし。ありがとうね」


 そうなんだぁ。……良かった……


「アマンダに聞いたけど、ヒールを飛ばしたって?どうやってやったんだい?」

「へ?」


 いきなりフランクさんに聞かれて、首を傾げる。ついでに飲み終わったスープのお皿をアマンダさんに渡した。


「ヒールを飛ばす?」


 えーっと、どういう意味だろ?


「遠くからアルゴにヒールしたって聞いたぜ」

「ああ。そういう意味ですか~。もしかしてヒールって飛ばせないんですか?」

「ああ、普通はどっか相手に触ってないと効かねぇな」


 ほえ~。そうなんだ……

 あれ?じゃあなんで私は飛ばせたんだろう?


「あ、そうそう。その件も含めて、団長が詳しく話を聞きたいって言ってたのよね。どうしようか……」

「連れてくのは無理だな。このちっこい嬢ちゃんはまだ本調子じゃねぇ。団長に、話が聞きてぇならこっちに来いって言っとけ」

「でも魔の氾濫が始まりそうだから、しばらく執務室から出れないと思うわよ。ユーリちゃんが回復するまで待ってもらうしかないわね」

「まあ、あと1日寝てりゃ治るだろ」

「了解。後で団長にそう伝えておくわ」


 アマンダさんたちは、ちょっと残念そうに会話を終わらせた。

 な……なんか気を遣わせちゃって申し訳ないな。


「あ……あのぅ……話に行くくらいならできると思うんですけど……」

「でもまだ体調が戻ってないんじゃない?」

「だいじょぶです!」


 ムンと力こぶを作ってみせたら、クラっとした。

 あう……調子乗り過ぎた。


「う~ん。でも正直俺も、お嬢ちゃんの話は早く聞きてぇしなぁ。よし、俺が連れてってやる」


 そう言うなり、フランクさんは私を抱き上げた。

 ファンタジーの王道のお姫様抱っこ……じゃなく、なんか太い腕の上に座らされてますよ???


 え?いくらちびっこって言っても、片手で抱き上げられるものなの?

 しかもこの人、神官さんだよ?!


 あれぇ?エリュシアオンラインって格闘ゲーだったっけ……?


「ほんっと、フランクって非常識な筋肉してるわよね」


 私を乗せてる腕を見て言うアマンダさんの言葉に、疑問が浮かぶ。


「アマンダさんは筋肉が好きなんじゃないでしたっけ?」

「好きだけど、ほどよい色気のある筋肉が好きなのよ。こんな筋肉ダルマじゃないわ」


 ほどよい色気のある筋肉ってどんなのだろう。想像がつかないんだけど。


「筋肉ダルマで悪かったな、おい」

「しかもこの人、ゴブリンくらいなら素手で倒せるのよ。回復よりもゴブリン殴ってる方が生き生きしてるって、職業の選択を間違えたんじゃないのかしらね」

「いざってぇ時にパーッっと回復するのが格好良いんじゃねえか。男のロマンだよ、ロマン。それにちっこいカスリ傷なんざ、一々ちんたら治してられっかよ。それよりさっくり敵を殲滅しといて、味方は後でまとめて回復した方が効率がいいだろ」


 うわーーー。これが噂の脳筋さんってやつかな。

 しかも神官とか……

 リアルで見るとこんな感じなんだ~。


 う~ん。まあ本人は楽しそうだからいいのかな……?


 女性騎士の建物から出て、執務室のある建物の方へ向かう。そういえば女性騎士の建物って基本的に男子禁制なんだって。神官さんだけが入れるみたい。

 まあ、いわゆるお医者さんみたいなもんだもんね~。訪問診療してくれるってことかなぁ。


 そのままフランクさんに抱っこされて執務室へと向かう。

 ドアを開けると、壁に貼った地図らしき物を見て話し合ってるレオンさんとアルゴさんがいた。


「アルゴさん!もう体は大丈夫ですか?」

「ユーリちゃんのおかげで完全復活したよ~。ユーリちゃんのほうこそ大丈夫かい?魔力切れって聞いたけど……」

「少し休んだら大丈夫みたいです。ご心配おかけしました~」

「いや……俺のせいでゴメンね」


 アルゴさんが近寄ってきて、頭をぽんぽんと撫でてくれる。

 うん。近くで見ても、顔色はいいみたい。

 はあ~。良かったぁ。


「ユーリ、体調が悪いのに来てもらってすまない。俺も立て込んでいてここを離れる訳にはいかなくてな」

「あのゴブリン、ですか?」

「そうだ。ああ、フランク。ユーリはそこのソファに座らせてやってくれないか」


 レオンさんに言われて、フランクさんは私をそっとソファーの上に置くと、そのまま横に立った。

 う……なんか皆立ってると圧迫感あるなぁ。


「さて、と。まずは昨日、ユーリが使った魔法について聞いてもいいだろうか?」

「あ、はい。なんでしょう」


 色々聞かれるんだろうなと思って、ちょっと背筋を伸ばしてみる。

 別にちっこいのを、少しでも大きく見せようとしてるわけじゃないからね。


「あ~、団長。なんか皆で見下ろしてたら、圧迫感凄いんじゃないかなぁ。ユーリちゃん、めっちゃ緊張してるみたいですよ~」

「あ、いや、別にそんな」

「ふむ。ではこうしよう」


 アルゴさんの言葉に頷いたレオンさんは、大きな机の向こうにある立派な感じの椅子を持ってきて、私をひょいと抱え上げた。そしてそのまま私を膝に乗せて椅子に座った。


 ふえええええぇぇぇぇ?


「お前たちは、ソファに座るといい。これで目線は変わらないだろう」


 はいいいいいいい?

 いや、そうだけど。でも何ですか、この恥ずかしい恰好!


「団長……あ、いや、別にいいです。はい」


 アルゴさああああん。そこは諦めないでぇぇぇ。


「それで昨日の魔法だが、小さい盾のようなものが体の周りを回っていたが。あれは何だ?」


 うーわーーー。

 背後から聞こえるイケボイスって、強烈ですううう。


「あれはエリア・プロテクト・シールドとエリア・マジック・シールドです」

「聞いたことがないな。身体強化魔法の一種か?」

「えと、エリア・プロテクト・シールドは、範囲の物理耐性強化の魔法で、エリア・マジック・シールドは範囲の魔法耐性強化の魔法です」


 効果時間って30分だっけ?1時間だっけ?

 後でちゃんと確認してみようっと。


「そんな魔法があるのか……。確かに、ゴブリンの攻撃による体感ダメージは少なかったな」


 レオンさんは、ふむ……と呟いて何かを考えているようだった。


「ユーリの国の魔法は我々が知るものとは少し違うんだな」

「えっ、そうなんですか?」

「まず呪文を唱える時に、術名だけで魔法は発動しない。魔力を高めるために、ある程度の長さの詠唱を必要とするんだ」


 ああ、それはアルゴさんも言ってましたね~。


「それに身体強化系の魔法は、自分にだけしかかけられない。ユーリのように他人、それも複数の人間にかけられるなど聞いた事がない」


 ほ~。そうなんだ~。

 やっぱりゲームとは違うって事かなぁ。でも私が使ってるのはゲーム仕様の魔法だよね?

 どういう事だろ……?


「ヒールも、触れずに回復する事はできない。それに……攻撃魔法と回復魔法の両方を使うものはいない。ユーリの国では普通にできる事なのか?」

「普通っていうか……ある程度、時間をかければできるようになる……かも?」

「ユーリがその魔法を覚えるのには、どれくらいかかったんだ?」

「えーと5年かなぁ」

「ユーリは今、何歳だったか?」


 うっ。ここは何て答えればいいんだろう。元は18歳ですけど、今は8歳なんですとか?


「えーっと、なんていうか18歳なんだけど、今は8歳っていうか、えーっと」

「ん?つまり8歳か」

「……今はそうだけど、本当はそうじゃなくて、えーと」

「どう見ても8歳にしか見えんが」

「ですよねぇ……」


 こ……これって年齢詐称になるのかな。でも本当の事言っても信じてもらえないだろうし……。何て言えばいいんだろう。


「では3歳から魔法の修業をしたということか……魔法国家なのか……?」


 いえ……ただオンラインゲームで遊んでただけです。修業なんてしてません。


 ど……どうしよう。多分、レオンさんたち、色々と激しく誤解してると思う。でも、その誤解を解くにはゲームやってたらこの世界に来ましたって話をしないといけないし……


「霊峰メテオラの頂きから登る、神々の住まう国、エリュシオン……そこに住まう神の一族はすべての魔法を使えたという」


 フランクさんが、そう呟いた。


 え?何なの、そのいきなり壮大な設定は?!


 でも、え?え?

 エリュシオン?

 エリュシアオンラインと似てるけど、何か関係があるの?!


 いや、でも私、普通の人間ですから!

 神様じゃないですからあああああぁぁぁぁぁ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る