第6話番外編・アルゴ・オーウェンの驚愕

 正直、俺はその瞬間自分の目を疑った。


 空からいきなり振ってくる無数の矢。雷属性のそれは小さな手の動きと共に空から放たれた。


 目が眩むほどの閃光と轟音。


 一瞬の事だったようにも永遠だったようにも思える時が過ぎた後、そこにはスライムの残骸どころか何一つ残ってはいなかった。光の矢に穿たれた地面は大きくえぐれ、その魔法の威力の凄まじさを表している。


 あまりの衝撃に、皮膚がチリチリとまだ震えている。


 恐れている……?

 この俺が、あんな小さな子供の事を……?


 このユーリ・クジョウと名乗る子供が現れたのは、魔の森の近くの小高い丘の上だ。たった一人でそんな所にいる子供は、怪しいなんてもんじゃなかった。


 砦の防衛には細心の注意を払う。

 ここは隣国とは接していないが、それでも魔の森の魔物を抑えるイゼル砦の戦力は他国にも知れ渡っている事だろう。

 特に英雄レオンハルトの名声と共に。


 その英雄の前に突然現れた子供。


 ただでさえ国内が落ち着かない時期だ。しかも魔族の国との関係も悪化している。


 これが偶然なのかそうでないのか、イゼル砦の副団長をしている俺には慎重に見極める必要があった。


 だがユーリは俺が後ろからわざと殺気を飛ばしても、アマンダが抱擁の振りをして急所を狙っても、何一つ反応を示さなかった。

 ただひたすらに無邪気な子供のように、俺やアマンダを慕っていた。


 本当にただの子供なのか、それとも殺気にすら反応しないほどの訓練をした者なのか……


 どちらにせよ、今はまだ判断する材料が乏しい。騎士見習いという事にして、俺とアマンダで監視しよう。砦の他の者とも、最小限の接点にするよう通達しなくてはいけない。


 だがそんな俺の思惑も吹き飛ばすほどの力をユーリは見せた。


 こんなにも凄い力を持つ魔法使いを、わざわざ密偵として使うはずがない。

 この子一人いれば、国を落とす事などたやすいだろうからだ。


 まだこの幼さでこの魔力……

 このまま育ったなら、一体どれほどの力を持つ事だろう。


 しかし、やはりこの子はニホンという国の有力者の娘であったに違いない。

 いつの間にかあの丘で寝ていたという事だから、権力闘争に巻き込まれて、眠らされたところを転移でもさせられたか。


 おそらく、さっきの光の矢は砦からも見えただろう。

 もうすぐ団長たちが駆けつけてくるに違いない。


 団長がきたら、ユーリの今後の事をよく話し合わないといけないな。


 あの無垢な子供が、大人たちの思惑に巻き込まれないように守ってやらなくては。


 でもその前に魔法の訓練をしないと、威力がデカすぎていつか砦を壊しそうだなと考えて、俺はヤレヤレと肩をすくめた。 

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