第5話VSスライムさん
異世界生活2日目の、九条悠里改めユーリ・クジョウです。
あれから疲れちゃって、ご飯も食べずにすぐ寝ちゃいました。目が覚めたらアマンダさんに抱えこまれてて、しかも大きなお胸さんがドーンと目の前にあって、それはもうビックリしました。
なんていうか、起きたら元の世界に戻ってるんじゃないかなって淡い期待も思いっきりブチ壊すくらいの迫力でした。
そんな風にアワアワしてるうちにアマンダさんが起きて、寝起きのちょっぴりハスキーな声で「おはよう」って言ってくれました。
はぅぅぅぅ。美人って寝起きでも美人なんですね~。
ちょっぴりドキドキしたのは秘密です。
まだ慣れてないだろうからってアマンダさんが部屋に持ってきてくれた朝ごはんをおいしく食べて、今日からさっそくLV上げです!
しかもね。
なんと、アマンダさんだけじゃなくて、アルゴさんもついてきてくれるそうなんです。いくら魔法が使えると言っても、魔の森の近くにはスライムより強い敵も多いし、私がどれくらい魔法を使えるかも見たいんだそうです。
本当に、この世界に来てから会う人たちがいい人ばっかりで良かった~。だって運が悪かったら誰にも会わないで魔物に襲われたりとか、もしかしたら盗賊にさらわれてたかもしれないしね。
うん。なんでこの世界にきちゃったのかは分からないけど、でもこうやって優しい人たちに出会えた事は素直に感謝しよう。
帰りたいって気持ちはたくさんあるけど、嘆いてたってどうにもならないもん。
だから前向きに行くんだ!
がんばるぞ、私!
二人の案内で四十分ほど歩くと、目の前にうっそうと茂る森が現れた。初めてこの世界に来た時にも見たこの森が、魔の森と呼ばれる森だ。
都会っ子には徒歩四十分はきつかったです。ぜーはー。
「ここら辺にね、スライムがいるんだけど……。あ、いたいた」
アマンダさんの指さす方を見てみると……
おおおおおお。
第一スライム発見です!!!!!
プルンとして丸くて、ぷにぷに動く青い体。
頭の上はとがってないし、目も口もついてないけど、あれぞまさしくエリュシアオンラインでお世話になったスライムさんです!
よし!
いざジンジョウニショウブだー!
「ユーリちゃん、がんばってね~」
「ユーリちゃん、ファイト!」
アマンダさんとアルゴさんの声援で元気百倍です。がんばります!
私はひのきの棒を持ち直すと、思い切ってスライムを叩いてみた。
「えいっ」
スライムはプルプルしている。
攻撃が効かなかったみたいなんで、もう一度叩いてみる。
「えいえいっ」
スライムはまだプルプルしている。
「えいえいえいえいえいっ」
スライムはこっちを無視してプルプルしている。
段々、叩いている私の方が疲れてきました……
おかしいなぁ。なんで攻撃が効かないんだろう。
「あの、さ。ユーリちゃん」
なんだか疲れたようなアルゴさんの声に、私は振り返った。
「ユーリちゃん、魔法使いなんだよね?なんで魔法使わないの?」
よくぞ聞いてくれました!海より深くて山より高い理由が、ちゃんとあるんですよ。
「それはですね、LV上げにA連打ペチペチが夢だったからなんです。それに魔法使いとか神官って剣が装備できないから、ひのきの棒も装備できなくて、ひのきの枝なんですよ?ひのきの枝でペチペチするのってなんか変じゃないですか?!だからやっと装備できるようになったひのきの棒で叩くのが、夢だったんです~」
よしっ。言い切った!
「……うん。何かよく分からないけど、ひのきの棒で叩くのが夢だったんだね。うんうん。それは良かったね。でもさ、全然攻撃が効いてないみたいなんだけど」
「そうなんですよね~。なんでだろう?」
「いや、あの叩き方じゃ無理だと思うよ?」
「えー」
「えー、って……可愛く言っても無理なものは無理だよ~」
アルゴさんが額に手を当てていた。その横ではアマンダさんが「かわいいからいいじゃない」とか喜んでいる。
でも、う~ん。そっかぁ。ひのきの棒じゃ倒せないのかぁ。
「じゃあ仕方ないから、魔法で倒すとして……火だと森に燃え移って火事になるかもしれないからダメで、風だと木が切れるくらい?水は……スライム元気になりそうだよね。雷……あ、水は雷に弱いんだっけ」
確か、ポケットに入るモンスターはそうだったはず。
じゃあ雷の魔法だ!
「サンダー・アロー!」
腕を振り上げて詠唱してみた。
すると指の先の方に力を感じる。
雷でできた矢をイメージしてそれを振りおろす!
いっけぇぇぇぇ!
その直後。
ドオオオオオオオオオオンという音と共に無数の雷の矢がスライムに降り注いだ。光と音の乱舞に、目も耳もおかしくなってしまいそう。
多分、魔法が発動されていたのは実際には三秒ほどの短い時間だったんだと思うんだけど、その時の私にはすごく長く感じられた。
そしてようやく魔法が鎮まると……
そこにスライムの姿はなく、半径5メートルくらいのクレーターのようなものができていた。
あ……あれぇ?
もしかして、やりすぎた……?
さすがにスライム1匹倒すのに、あの魔法はやりすぎでした。
こんな所にクレーターをたくさん作っちゃダメってアルゴさんに言われて、LV上げは中止です。
そしてさすがにスライム1匹倒しただけじゃ、LVは上がりませんでした。
がっくり……
とりあえず休憩というか、その辺に座ってアマンダさんが持ってきてくれた水筒からリコのジュースをもらっています。
ちなみにワンピースが汚れるからと、アルゴさんがハンカチを地面に敷いてくれました。紳士ですね~。
「さあ、リコのジュースよ~」
このまま水筒に口つけちゃっていいのかな?いいのよね?
ゴックン。
おお~。これが昨日グレなんとかさんに持ってきてもらうはずだったリコのジュースなんだ~。
飲んだ感じは少し酸味があって、薄いアセロラっぽい感じ。冷たかったらもっとおいしそう。
これ、アセロラと同じく、ビタミンCたっぷりだといいなぁ。
ちびっこといえども。
いえ、ちびっこだからこそ、今からお肌のお手入れが大切です!美肌バンザーイ。
「それにしてもびっくりしたよ。凄い魔法が使えるんだね~」
右隣に座ったアルゴさんに言われて、ちょっと困った。
でも、あれって雷属性では一番弱い魔法なんだよね。賢者のLVが1でも、魔法使いのLVのままの魔法の威力って事なのかなぁ。
だとすると、魔法を使う時は気を付けないと、威力が大きすぎるって事かな?
うわぁ。良かった。さっきファイアー・ボールとか使わなくて……思いっきり森林火災起こしてたかもしれない。ひぃぃ。
「しかも短縮詠唱だしね」
「タンシュク詠唱?」
「うん。普通は魔法を発動する時に、もっと長い呪文詠唱をするんだ。でもユーリちゃんは術名だけで魔法を発動させただろう?」
うん。だってゲームで「我が呼び声に応えよ雷。その力もって敵を滅せよ、サンダー・アロー!」なんて言わないもんね。普通にサンダー・アローって呪文を選んだだけで発動したし。
「他の属性の魔法も使えるの?」
「えーっと。あとは、火と水と風と土ですね~」
「全属性か……凄いな」
そうなの?エリュアシアオンラインの魔法使いでは普通だけど。やっぱりゲームとリアルの違いって事なのかな。
「普通は全部の属性の魔法を使えないんですか?」
「そうだね~。たとえば俺は風の魔法を使うけど、他は使えないね。アマンダは二属性だっけ」
「ええ、火と風ね」
「俺が知る限り、全属性の魔法を使えるのは団長くらいかな~。しかもあの人、剣に魔法属性つけちゃった非常識な人だし」
剣に属性って……上級職の魔法剣士みたい。
もしかして上級職がもう解放されてるとか?
あ、でも賢者の塔は知らなかったみたいだから、賢者の職は解放されてないよね。
上級職って、賢者以外って何があったっけ。興味なくてあんまり覚えてないけど、魔法剣士と忍者と、あと何だっけなぁ。
基本職は、剣士・狩人・魔法使い・神官くらいだったんだけど。
う~ん。私が知ってるこの世界の知識と現実が、どこまで一緒でどこまで違うのかを知りたいと思う。うっかり何か話して、この世界の人間じゃないって事を知られたくないしね。
「そうね。団長がその戦い方を広めてくれたから、イゼル砦は女性騎士が増えたのよ」
おお~。そうなんだ。
あ、じゃあ、もしかしてレオンさんが魔法剣士に転職する為のマスターだったりしてね!
「普通に戦うんじゃ、どうやっても女は男にかなわないわ。でも、こうすれば」
立ち上がったアマンダさんが腰の剣を取り、手をかざした。
「我、身に宿りし炎の力の具現を願う。我が剣に、まとえよ炎!」
呪文らしきものを唱えると、アマンダさんの持つ剣が燃えた。
あ、違う。剣から炎が出てきた。
おおおおおおお。
すごおおおおおおおおおおい。
なんか、これぞファンタジー、って感じだ~~~~~。
「アマンダさん凄いです凄いです!うわぁ、かっこいい~~~」
思わず拍手すると、アマンダさんは綺麗な顔に、それはそれはもう綺麗な笑顔を浮かべた。
はううううう。
かっこよくて綺麗なんて憧れますぅぅぅぅ。
「ユーリちゃん、見て見て。俺もできるよ~。我、身に宿りし風の力の具現を願う。我が剣に、まとえよ風!」
おおおおおおおお。
アルゴさんもすごおおおおおい。
剣の周りに風がぐるぐるしてるよ。
おお、剣を上にしたら竜巻っぽいのが出てる~。
「ね、俺もカッコイイでしょ?」
「はいっ。二人とも凄くカッコイイです!」
「うんうん。素直な反応でいいねぇ」
魔法剣士、かっこいいなぁ。ああ、私も剣士のLV上げておけば良かった。魔法使いのLVは99だったから、剣士をLV99にしてれば……
いや、でも、やっぱり賢者が一番だよ。魔法攻撃できて回復できて、剣も持てるんだもん。
あ、だけど賢者で剣スキル使うために剣士をLV99にするっていう手もあったのか。
でもね~、あのマゾい経験値を考えると、やっぱり私には無理かなぁ。
「いいなぁ。カッコイイなぁ」
「う~ん。ユーリちゃんは剣より魔法の方が向いてるんじゃないかなぁ」
「ですよね~」
スライムすら倒せないんだもん、剣の才能はなさそう。
「イゼル砦の皆さんは魔法剣士さんが多いんですか?」
「あら、その言い方いいわね。私たちは魔剣使いって呼んでるけど、魔法剣士のほうが良い呼び方だわ。そうねぇ。まあ騎士なんて剣持って振り回すのが好きなヤツばっかりだしね。団長が剣に属性をつける戦い方を教えてくれる前も、剣士の方が魔法使いよりは多かったわね」
はっ。よく考えると、レオンさんもアマンダさんもアルゴさんも魔法剣士なんだから、剣士のLVも魔法のLVも99なの?!
「剣に属性をつけるってことは、魔法もできないとダメって事ですよね?」
「そうね」
「じゃあ魔法使いになれるし、剣士にもなれるっていう人が魔法剣士になるんですか?」
「いいえ。私たちは元々剣士だから、魔法はそんなに得意じゃないわね。でも剣に属性をつける程度なら、ちょっと魔法の才能があればいいからできるのよ」
じゃあ剣士と魔法使いのLVを99にしなくても、魔法剣士になれるって事か~。
それでもって、やっぱりこの世界とゲームの世界とは違う、って事かぁ。
賢者の塔も……みんな知らないみたいだけど、実在するよね……?
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