第4話もしかして帰れる方法を見つけたかも!?

「何でもいいが、覚えていることはあるか?」


 レオンさんに聞かれて、おずおずと口を開く。


「あの……信じてもらえるか分からないんだけど……それまで自分の部屋にいたはずなんです。でも気がついたらあそこで寝てたみたいで。私にも何がなんだか……」

「そうか……」


 レオンさんは顎に手をやると、何かを考えているようだった。


「家名持ち、しかもこの様子だと高位の貴族の家の子供だろう。そんな子供が護衛もつけずに一人でいるとは考えられない。とすれば偶発的な事故があったということか?」


 ほえ?貴族?

 いやいやいや、そんな御大層な家じゃありませんよ?!

 お父さんは普通のサラリーマンですもん。


「私、貴族なんかじゃないですよ」

「貴族ではない?しかし家名もあるし……その手は労働者の手ではないだろう。しかもその年でその喋り方ができるのは、教育を受けた者でしかありえない」


 労働者の手っていうのは、何となく肌荒れしてアカギレとかある手なのかなって気がする。確かにそんな手はしてないけども、貴族の手って言われるほどのお手入れはしてないような……爪もヤスリで削ってなくて、爪切りでパッチンだし。


 それに喋り方も、本当は18歳だから8歳の子の喋り方よりも大人っぽいのは当たり前だもん。


 ああ、やっぱりうまく誤魔化すとかできない。


 でも本当の事は言えないし、どうしよう……


「でも私の国ではみんな家名を持っているんです。貴族はいなくて……あ、王族だけは名前だけなんですよ。この国とは反対かもです」


 王族じゃなくて皇族だけどね。


「ほう」

「教育も国民全員がある程度の年まで受けられるんです。だから、私は普通の家の子です」

「つまり、君の国はみなが貴族のように暮らしているという事か?」


 う~ん。ちょっと違うと思うんだけど……でも身分制度はないよねぇ。

 なんて言えばいいんだろうと悩んでいると、レオンさんに軽く頭をなでられた。


「子供には難しい話だったな。すまない」


 いえ……本当の事言えない私の方が悪いんです……

 罪悪感で胃がシクシクしてきたよぉ。


 はぁ。それにしても、ゲームで賢者に転職したらゲームの世界に来ちゃったなんて……自分の事だけど夢物語みたい。

 こんな事なら賢者に転職しなければ……


 んん?


 賢者に転職??


 もしここがエリュシアオンラインと同じ世界なら、ここにも賢者クエで行った賢者の塔があるんじゃない?!

 私は賢者の塔で賢者になった直後にこの世界に来たんだから、もう一度そこに行けば元の世界に帰れるかも。それに、賢者の塔には賢者のマスターのノウンがいる。彼に聞けば元の世界へ帰る方法が分かるかもしれない!


「あのっ。もしかしたら賢者の塔に行けば何か分かるかもしれないです!」

「ケンジャの塔?どこにあるんだ、それは」

「えーっと、魔の森のほぼ中央に建ってる塔です」

「魔の森だと?!」

「あ、でも中に入るには鍵が必要かも?確か六つの国のそれぞれのダンジョンに行かないといけないんだったかな?……そういえば鍵って持ってないのかな。アイテムボックスに入ってたはずだけど、アイテムボックスってどこにあるんだろ?アイテムボックスオープンって言ったら出てくるのかなぁ。……あ、出た」


 試しに言ってみたら、アイテムボックスらしきウィンドウが出てきました。

 賢者の塔への鍵はないかなっと……


 ポーションとか前に使ってた装備とかはあったけど、賢者の塔へ入る鍵は見つからなかった。そういえば鍵を使ったら消えたんだっけ……


 じゃあもしかしたら賢者の塔まで行けばそのまま入れるとか?

 賢者なんだから、当然賢者の塔はフリーパスでしょう。

 でも万が一って事もあるし、もっかい鍵を取りに行くべきなのかなぁ。LV1で行けるとこだったっけ……?


 ぐるぐる考えていた私は、突然ぶつぶつ言いだした私に唖然としているレオンさんとアルゴさんの様子に、全く気がつかなかった。


「君のような小さい子が魔の森へ行くなど、絶対に無理だ」

「うんうんうんうん。ユーリちゃんは知らないだろうけど、魔の森のモンスターは他より強いんだよね。スライム相手でも勝てないんじゃないかな?」


 二人にそう言われたけど、さすがにスライムくらいは倒せるもん!

 LV1だけど、倒せるもん!

 ……た……多分……


「スライムくらいは倒せます。っていうかLV上げれば魔の森もへっちゃらです」


 だって魔法使いLV99の時にはソロで狩りに行ってたしね。さすがに賢者の塔の中のモンスターは強いから、転職クエストの時はパーティー組んで行ったけど。

 ああ、ギルマスのサヤカさんが声かけてくれて、ギルドメンバーたちと行ったんだっけ。

 そうか……あれって、まだ、たった半日前の出来事なんだ……

 たった半日前の事なのに、あの日常がこんなにも遠くなってしまってる。


 また涙がじわりとこぼれそうになったのを手の平でぬぐう。


 大丈夫。がんばれる。

 がんばってLV上げて、魔の森抜けて賢者の塔へ行く!


「レベル上げというのは強くなるということか?君は、何か戦える術を持っているのか?」

「魔法が使えます!まだLV1だから弱いけど、強くなったら何でも倒せます」

「……そう、か。……とりあえず君の処遇がはっきりするまで、この砦で君の身を預かろう。ユーリ・クジョウ、君はここで騎士見習いになってみるか?」


 それって、ここに置いてもらえるって事?

 わーーーい。やった~~~~。

 LV上げするにも衣食住は必要だもんね。

 ああ、良い人たちに出会えて良かった~~~~~。


「お願いします!」

「分かった。では……そうだな。アルゴ、アマンダを呼んでくれ」

「了解、団長」

「ユーリ、アマンダは少しばかりうるさいが、あれでいてかなりの子供好きだ。お前の面倒をしっかり見てくれるだろう。他にも何かあれば俺かアルゴに言うといい」


 そう言ってレオンさんはソファーから立ち上がると、私に手を差し出した。


「ユーリ・クジョウ。君をイゼル砦の騎士見習いに任命する」

「はいっ。よろしくお願いします」


 私はその手を取って、勢い良く立ち上がった。


 九条悠里は騎士見習いで賢者LV1のユーリ・クジョウになって、賢者の塔目指してがんばります!












 そして引き合わされたアマンダさんは、相変わらずテンションが高かった。

 いきなり抱きつかれて、大きな胸に圧迫されて窒息しそうになったのには焦ったけど、本当に子供好きみたいで凄く良くしてくれた。


 アマンダさんたち女性騎士がいるのは、最初に見た時には気が付かなかった、砦の奥側の建物だった。あの暗い階段を上がると、手前から男性騎士たちの住居、執務室がある建物、女性騎士の住居、という風に並んでいるらしい。


 女性騎士というのは結構珍しいらしく、普通は女性王族の近衛にしかいないんだけど、このイゼル砦だけは昔から女性騎士が常駐しているんだそうだ。


 もちろん騎士同士の恋愛とかもあるみたいだけど、前に恋愛のいざこざで決闘騒ぎとかもあったらしくて、私闘に対する処罰は厳しいらしい。

 まあ恋愛でギスギスしてたら協力して戦えないしね。それも当然だよね。


 そしてそんなアマンダさんの好きな人は、あの超イケメンのレオンさんじゃなくて、なんと熊っぽいゲオなんとかさんだった!

 すっごいビックリ。

 なんでも筋肉が超好みなんだそうだ。

 いや、モチロン性格もいいらしいけど、一番好きなのは筋肉なんだって。


 うっかり聞いていると上腕筋がどーのとか、凄くマニアックな話になったので止めました。胸の周りの筋肉がセクシーとか言われても……。


 うん。色んな趣味があるんだなぁ……


 もちろん女性騎士の間で一番人気があるのはレオンさんなんだけど、全く相手にされないし、下手にアタックするとイゼル砦から地方都市の警備隊に移動させられてしまうんだそうだ。それでレオンさんは遠くから観賞用として愛されているらしい。


「でもユーリちゃん、最初は男の子か女の子か分からなかったから、何を着せればいいかなって考えちゃったわ~。ダボダボのローブ着てたしね~。今はどこからどう見ても可愛い女の子だけど」


 アマンダさんに女の子?って聞かれてそーですと答えてから、ずっと着せ替え人形になってます。なんでもアマンダさんが子供の頃に着ていた服を大切に取ってあったそうで、それを着せられているんだけど三着ほど着替えたところでギブアップしました。


「あの、でも騎士見習いになるんだったら、こんなドレス着てられないと思うんですけど」

「騎士見習いって言っても、剣士じゃなくて魔法使いなんでしょ?大丈夫大丈夫。杖振って呪文唱えられればいいんだから。それに一応そのドレス、防御の魔法陣も組み込んであるし」


 防御の魔法陣?!よく分からないけど、なんか凄そう!

 アマンダさんそんなのを子供の頃から着てるってことは、貴族なのかな。


「うちは普通の商家よぉ~。服を取り扱ってたから、私がそのまま広告塔になってたってだけ。ああ、家名持ちなのは騎士になったからだわね」


 平民でも騎士に叙勲されると、一代限りの騎士爵というのをもらえるんだそうだ。家名は他と重ならなければ自分でつけてもいいし、上司とか師匠につけてもらったりもするんだって。

 アマンダさんは自分でルージュという家名をつけたらしい。


 アマンダ・ルージュ。

 うん。ぴったりな名前だよね。


 とりあえずあれもこれもと着せようとするアマンダさんを阻止して、一番シンプルな薄いピンク色のワンピースを貸してもらうことにした。

 肩に斜めがけしている猫の顔のモチーフのポシェットは、実はアイテムボックスと繋がっている。


 あの後分かったんだけど、ステータスとかアイテムボックスのウィンドウは他の人には見えないみたいなのよね。ステータスウィンドを見るくらいならともかく、アイテムを何もない空中から出すのはおかしいから、とりあえず持っていたバッグを活用することにしたの。


 なんで猫の顔のバッグかっていうと、それしか持ってなかったからです……。


 いや、だって2月22日でにゃんにゃんにゃんな猫の日にイベントがあったんだもん。

 猫系の魔物倒すと肉球がドロップして、それを集めるとNPCが各種おしゃれ装備に交換してくれるっていう、猫マニア垂涎のイベントだったんだよ!

 もちろん私も参加して装備コンプリートしたけど。

 うん。バッグの他にも猫耳カチューシャとか猫のしっぽつきドレスとか肉球グローブとか持ってるけど、さすがにバッグ以外は恥ずかしくて出せないよね。


 ピンク色のワンピースを着て猫のバッグを持って、まだLV1だからそれ以外装備できないんでひのきの棒を持って。


 あれ?賢者ってこんなのだっけ?

 なんかそこら辺に遊びに行く子供みたいなんだけど……


 でもいいんだもん!

 これでスライム倒してLVを上げるぞ!

 お―――!

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