第3話現状を考えてみる

 よく、夢から醒めると言うけれど、どの時点で夢から醒めたことを自覚するんだろう。

 やっぱり目が覚めてそこが見慣れた自分のベッドの上だったら、だろうか。


 じゃあ、もしもその夢がいつまでたっても醒めない夢だったなら……?


 夢が現実となって、今まで確かにそこにあったはずの現実が、夢の彼方へと消えてしまうんだろうか……?





 はい。自分でも自覚しています。

 絶賛、現実逃避中の私です。


 だってね、目が覚めたら知らない天井なんだもん。

 ぐるりと見回した部屋の中も全く見覚えがなくて、意識がなくなる前に見た執務室とやらにそっくり。


 夢だったはずなのに、まだ醒めない……


 ジワリと目に涙が浮かぶのを感じる。


 でもだめだ。

 泣いちゃダメ。

 ここで泣いても何の解決にもならない。


 考えろ、考えるんだ。私がこれからどうすればいいのか。


 まず私はどうしたいのか。

 それは決まってる。この世界が現実なら、元の世界に戻る事。


 じゃあどうやって元の世界に戻る?

 ……そこで思考が止まる。


 この世界は私みたいに違う世界から人が来たりするんだろうか?もしかして自由に行き来できたりして?

 それなら私はすぐ帰れるから安心なんだけど……


 もし異世界との行き来が自由にできないのなら、それが故意にしろ偶然にしろ、私がここに来たのには何らかの原因があるはず。その原因が分かれば、帰る方法も分かると思う。


 でもその原因を、どうやって突き止めればいいんだろう……?


 仰向けになったまま、両手を伸ばしてみる。

 本来の私のものよりも、ずっとずっと小さな手。


 これ、絶対ちびっこになってるよね。


 この世界ってちびっこ一人で何とかやっていける世界なんだろうか……


 ステータスとか見れればいいんだけど……エリュシアオンラインでは当然見えたけど、ここでも見えるんだろうか?

 でも押せそうなボタンとかないしなぁ。それとも小説みたいにステータスオープンとかって言うんだろうか。


 い……言っちゃう?

 言ってみちゃう?


 旅の恥はかき捨てって言うし、思い切って言ってみちゃう?


「ス……ステイタス。オープン」


 なんか厨二病みたいではずかしくなったから、思いっきり小声で言ってみる。


 すると目の前に半透明な窓が開いた。


「えっ。できた?」


 半透明の窓には文字と数字がたくさん並んでいた。もしかしてこれがステータス?


 えーっと、どれどれ。




 九条悠里。8歳。賢者LV1。


 HP 156

 MP 125


 所持スキル

    魔法 100

    回復 100

    錬金 100



 称号 

    魔法を極めし者

    回復を極めし者

    異世界よりのはぐれ人




 なんかHPとMPは微妙な数値だけど、LV1だったらこんなものかなぁ。

 年齢は8歳か~。なんでこんな中途半端な年齢なんだろう?

 う~ん?


 スキルはゲームでMAXまで取ってたからそれが反映されてるとして、問題は称号だよね……


 異世界よりのはぐれ人って何だろう……


 はぐれた、ってどういう意味だろう?

 日本で一番有名なはぐれモンスターなら銀色のアレだけど……

 う~ん、う~ん?


 つまりはあれかな?

 迷子って事かな???


 そうだ。ステータス画面が出たって事は、ログアウトもできるんじゃないかな……


 と……とりあえず試してみよう。


「ログアウト!」


 しーーーーん。


「ログアウト実行!」


 やっぱり、しーーーーーん。


「ログアウト、エンター!」


 ……分かってはいたけど、何も反応なし。

 やっぱりダメかぁ……


 じゃあフレンドチャットのほうはどうだろう。


「フレンドチャット・オープン」


 こっちも反応なし。

 反応するのはステータス画面だけって事かぁ……


 はぁ……残念。


 やっぱり帰れないのかなぁ……

 お母さん、お父さん、お兄ちゃん……


 また涙がにじんできて、ホロリと頬を伝った。


 その時、トントンとドアを叩く音がして、誰かが部屋に入ってくる気配がした。視線を巡らせるとそこにはあの人間離れした超絶美形な団長さんがいて、目が合うとなぜか固まってしまった。


「?」


 な……何?何で固まってるの?


「だんちょー。あの子起きましたか、って。うわぁ。どうしたの?団長に泣かされたのっ?」


 超イケメンさんの後ろから顔を出したアルゴさんが、慌てて私のところまで来た。


 え?泣かされてないけど……あ、涙出てたから誤解されちゃったのかな。

 私は慌てて起き上がった。


「いえっ、あの、違うんです。これは別に泣いてたわけじゃ……あ、ちょっと涙ぐんではいましたけど、別にそれは団長さんのせいじゃなくて。あのっ、そのっ」

「そっかそっか。団長もね、悪い人じゃないんだけどたまに言葉がきつかったりするからさ。てっきりそれで泣かせちゃったのかと思ったんだよね~。それで大丈夫?もう起きられる?」

「あ、はい。ご心配おかけしました……」


 ソファーに座りなおした状態でお辞儀する。ハラリ、と銀色の髪が頬にかかった。


 ん?銀色?


 もしかして……もしかするんだけど、今の私の姿って、九条悠里の物じゃなくて、エリュシアオンラインで使ってたキャラの方なの?!


 エリュシアオンラインでは、人・エルフ・妖精・魔族・ドワーフ・獣人の六つの種族からキャラを選べる。私はとりあえず初めてのオンラインだからと思って、人かエルフか妖精で悩んだけど、最終的に人を選んだ。

 髪は肩につくくらいの銀髪で、ちょっと猫目っぽい目は紫だ。


 そういえば、あの女の人に悪い事しちゃったなぁ。話しかけられたのにいきなり気絶しちゃって。


「そういえばさっきのお姉さんにも、迷惑をかけちゃって……」


 肩を落とすと、アルゴさんが横に座って優しく頭をなでてくれた。


「ああ、アマンダの事なら気にしなくていいよ。まったく、一人であんなとこにいて不安になってる子に大声でまくしたてるとか、気配りってもんが足りないよね。団長もそう思うでしょー?」

「いや、お前も大概うるさいと思うぞ」

「ええーっ。そんな事ないですよー!」

「もういいから黙れ。その子と話もできん」

「はいはーい。団長も相手は子供なんですから、怖がらせないでくださいね」

「分かっている」


 アルゴさんが離れると、団長さんが代わりに私の横に座った。


 うう……。なんか緊張する。


「俺はこの砦の団長をしているレオンと言う。いくつか質問をしたいんだが、いいかな?」


 私は返事の代わりにコクンと頷いた。


「まず、君がきたのはニホンという国からで間違いはないだろうか?」


 私はもう一度頷いた。


「ではなぜあんな所にいたのか、分かるかい?」


 その質問には首を振る。私だって、それは知りたい。


「それまで一緒にいた人はいるのか?両親でも親戚でも……」


 また首を振ると、レオンさんは困ったように私を見た。


 でも私だって困ってるんです。ゲームしてたらいきなりその世界に来ちゃいましたなんて言っても信じてもらえないだろうし、何て説明したらいいんだろう。


 それに本当の事を言って異端視されるのも怖いし……


 どうしよう。

 何て答えればいいの?

 誰か教えて~~~~~

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