第2話これって夢だよね?

 はい。現在私は、今まで見たこともない美形さんに馬に乗せてもらっています。

 ちびっこ仕様なので、すっぽりと包みこまれる感じで安定しています。

 一応、鞍みたいなのがついてて、私は手綱を取る腕にしがみついてます。結構鍛えてるのか、腕が太いですね~。


 それにしても馬って結構揺れるなぁ……


 ホント、この夢はリアルすぎる。


「ユーリはどこの国から来たのか覚えているか?」

「日本ですよ~」

「ニホン……聞いたことがないな」


 下から見上げると私を見下ろす美形さんと目が合った。

 うわぁ。下から見てもカッコイイとか反則じゃないかな。


「海の中にある島国です。四季があって過ごしやすいですよ」

「シキ……?」

「はい。春夏秋冬があって春には桜が咲いて、夏にはプール行って、秋には焼き芋食べて、冬には雪だるま作るんです」

「それは……楽しそうだな」

「はいっ」


 なんだか分かってなさそうだったけど、夢だしこれ以上の説明はしなくていいよね。


 でも……

 なんだかちょっと怖い。

 なんていうか感覚がリアルなんだよね。なんて言ったらいいのか分からないけど、妙に現実感があるというか……


 で、でも、現実でこんなハリウッドスターとかモデルよりもかっこいい人なんて見た事ないし、これは夢でいいんだよね……?


 不安なのが顔に出たのか、金髪のお兄さんは私がつかまってない方の手で、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「大丈夫だ」


 うん。深みのある声で言われたら、なんか大丈夫そうな気がしてきた。


「……はい!」


 そうだよね。せっかくのリアルな夢だし楽しもう。

 気を取り直して周りを見るけど、灰色の道と草原と遠くの森くらいで、特に見るものはないなぁ。

 あ、なんか遠くに建物が見える。


 段々と近づくと、ヨーロッパとかにありそうな小ぶりなお城が見えてきた。

 周りを石の壁で囲まれて、中央には塔が見える。


「あれがイゼル砦だ。聞いたことはあるか?」


 金髪のお兄さんに聞かれて、首をふるふると振る。


「そうか。……まあ、詳しい事は砦に着いてから聞こう」


 近くに行くと城壁の周りにお濠みたいなのがあって、入口のとこに橋がかかってた。

 そして城壁から声が聞こえて、ガラガラと吊り橋みたいなのが降りてくる。


 吊り橋が地面に降りて、ドシーンと振動が響くのを、私は不安と共に感じていた。


 砦の中へ入るとそこはちょっとした広場のようになっていた。団長さんたちが中に入ると、わらわらと人が集まってくる。


「アルゴ。ユーリを頼む。執務室で待っていてくれ」

「はい、団長」


 先に馬から降りたアルゴさんが、私を馬から降ろしてくれた。

 トンッ、と地面に足がつく。

 足先から伝わる確かな振動。


 ううん。そんな事ない。

 これは夢。

 夢に決まってる……


「じゃあユーリちゃん、こっちおいでね~」



 アルゴさんに手を引かれて、私は不安で押しつぶされそうになりながらもその後を追った。





 広場を抜けると、人が一人くぐれる程度の入口があった。そこを抜けて、薄暗く狭い階段を上に進む。

 なんだか心細くなってアルゴさんの手をぎゅっと握ると、アルゴさんは振り返って私を安心させるように微笑んだ。水色の瞳が優しく微笑んでいる。


「ちょっと暗いから怖いよね。すぐに明るくなるから、もうちょっと我慢してね」


 私がこくっと頷くと、アルゴさんはまた前を向いて先を進む。


 階段を登りきったそこは、建物の屋上のようになっていた。暗い所から急に明るい所に出て、一瞬目がくらむ。ようやく目が慣れて周りを見ると屋上の上にはまた別の大小二つの建物と塔が建っていた。


 アルゴさんは大きい方の建物へ歩いて行き、門の前に立つ騎士のような人たちに挨拶して中へ入った。


「さあ、こっちだよ」


 大きなホールのような玄関の奥に、右から左にかけて上がっていく階段があった。そこを登って右端の部屋へと向かう。

 中に入ると、大きな机がまず目に入った。そして積み重なる書類らしき紙の束。


「さあ、じゃあここに座ってね。えーと、何か飲み物でもあったほうがいいかな。ちょっと待ってね」


 壁際にあるソファを示すと、机の向こうにある紐を引く。

 するとしばらくして誰かがドアをノックした。アルゴさんが入室の許可をすると、熊みたいな髭もじゃの人が部屋に入ってきた。


「お呼びですか、副団長」

「ああ、うん。ちょっとこの子にね、何か飲み物を持ってきて欲しいんだ。子供でも飲めるようなものを……あ~、ユーリちゃん、飲めないものとかってあるかい?」


 聞かれて首を傾げる。

 っていうか、夢の中でそんな事聞かれても、どう答えたらいいの?


「とりあえずリコのジュースでいいかな。ゲオルグ、頼むよ」

「了解しました」


 ゲオルグと呼ばれた熊さんが立ち去ると、アルゴさんが私の隣に座った。


「さて、と。う~ん。何から聞けばいいのかなぁ」


 眉を下げてそう言うアルゴさんに、私は恐る恐る聞いてみることにした。


「あの……ここってどこですか?なんて言う国ですか?大陸の名前は?」

「えっ。そこから?」

「はい。お願いします」

「大陸の名前はエリュシアだね。でもってここはアレス王国のはずれにあるイゼル砦。魔の森のすぐそばにある砦だけど、聞いたことないかい?」


 エリュシア……


 その時、私は賢者に転職した時に真のエリュシアに行くかと聞かれた事を思い出した。

 でも、まさか、そんな……


 イゼル砦という名前に聞き覚えはないけど、アレス王国なら聞いたことがある。っていうかクエストで何度も訪れた国だ。


 最近も王位継承のゴタゴタがあって、国王派と王弟派で争ってるのを収める為に協力してくれなんていうクエストをやった気がする。本当は二人は仲が良いんだけど、黒幕がいてわざと仲たがいするように仕向けていたんだっけか。

 あのクエスト、報酬が武器で剣か杖か選べて良かったんだよね。


 って、そうじゃなく!


 え?え?え?


 ホントにゲームの世界にきちゃったの?

 ここ、エリュシアオンラインの中なの?


 え?でも夢じゃないなら、私これからどうなるの?

 元の世界に帰れるの?


 あまりにも理解不能な事態に目をまわしていると、いきなり扉がバーンと開いて、真っ赤な髪の超美人さんが現れた。赤い目も鼻も口も大きめな華やか美人さんだ。まつ毛もばっさばっさで、爪楊枝がいっぱい乗りそう。


「アルゴ!団長の隠し子ってその子?」

「アマンダ。いきなり何を言ってるんだ」

「いや~ん。可愛いじゃないの。団長ったら女に興味ありませんなんて顔しちゃって、しっかりこんな可愛い子作ってるし。ねね、いくつ?お名前は?お母さんはどうしたの?」


 矢継ぎ早に聞かれて、ただでさえ回っていた目がさらにグルグルする。


 グルグル世界が回って……

 ぐらぐらぐらぐら世界が揺れて……


 そしてそのままフェードアウトした

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る