第10話 つきあえんじゃね?


フードコートでハンバーガーを食べる。丸テーブルに椅子3つ。幸矢先輩と向かいあって座る。余った一つに買ったばかりのスポーツショップの袋が乗った。


「幸矢先輩、部活。続けるんですね」

「ん?」

「ウェア新調したの、そのためっすよね」

「まぁね。あの成績を水泳生活最後の記録にしたくねーなって」


8月半ばの県大会。先輩は自己ベストに遠く及ばず予選落ちした。

次に出られる公式戦は……一年後。


「馬鹿だと思ってんだろ」

「そ、そんな事……」

「部活か受験。3年の夏をどっちに捧げるべきなのか。わかっちゃいるんだけどっさ。もう一年頑張って、キレーに終わらせたいんだよね」

「そうすか」

「ん。それに。もう一年、一矢の裸を見放題なのも捨てがたいし。なんてね」


それは……。俺を好きって事ですか?

先輩も同じって事ですか?

言った先から冗談にされると、自信がもてないよ。


「どうすっか?時間あるし、もっかいプラッと中見てく?」


このままじゃ、どこにも進めない。


「一矢?」

「先輩は」

「ん?」

「先輩は、そうなんですか?」

「……。そうって」

「だから……」


俺と同じで男の人が好きなんですか?

言葉にするには、ものすごく勇気がいる。


「一矢?」

「だから、先輩は、そういう人種なのかなって」

「そういう?」

「……。はい」


鈍いの?じらされてんの?どっちなんだろう。


「一矢はそうなの?」

「……。たぶん」

「そか」

「で?先輩は?先輩も?」

「う〜ん」

「せんぱい」

「一矢の事は……気になってる」


少しズルイけど。でも、聞きたかった言葉だ。


「そっちは?一矢は?俺のこと……」


好きです。

僕もです。

気になってます。


なんだろう?言葉は次々浮かぶのに、一つも口から出てこない。


「俺の事。好きなの?」


頷いた。それが今の精一杯。


「そか……」


どんな顔してんだろ。確かめたいけど、怖くて顔上げらんないよ。


「俺たち、付き合えんじゃね?」


そう言った幸矢先輩の声は少し震えてた……。

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