第08話 横顔がものたんない

待ち合わせの時間ピッタシに、幸矢先輩は現れた。


「待った?一矢」

「ううん。全然」

「よかった」


手慣れた感じで、先輩は僕の肩を抱く。


「人が多いよ」

「だからじゃん」

「え?」

「見せつけてやるんだ。俺たちのこ〜と」

「せ、せんぱい……」

「いっそ、チューとかしちゃおっか。こ、こ、で」

「はぁ?」

「みんなに、LOVEのおすそわけ」

「ちょっ」


止める間もなく、頬に先輩の唇を感じた。肩を抱く手に力がこもる。待って。ちょっと待って。改札前の広場で、さすがにそれはマズイって。どこで誰に見られたものか、判ったもんじゃ……。


「って!」


突然足に痛みが走る。蹴られた?


一矢「せ、先輩」

幸矢「呼んでも返事しねーから」


隣にいた筈の先輩が目の前に……。


「なにニヤニヤしてたんだよ?一矢」

「え?……べつに、なにも」


妄想に浸ってました、なんて絶対言えない。


「まいいか。行くか」

「は、はい」


広々とした並木道。先輩は隣を歩いてる。一月前は、部員の肩越しに見え隠れする背中が嬉しかった。今は……横顔が少しものたんない。

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