第03話 朝は髪との格闘だ

「どうですか?いい感じになってますか?」

「なってません」

「なってますよね〜こんな感じに。ほら?」


洗面台に置いたスマートフォンにイケメンさんが映ってる。クセを活かしたスタイリングは、確かにめっちゃかっこいい。

でも……。

現実を見よう。鏡に映る自分を見よう。ボサボサだよ。ゲームの小ボスにいそうだよ、こんな奴。

スタイリング動画のとおりにやったのに、なんでこんなに結果違うの?

俺のせい?

不器用だから?

リビングの時計が鳴り出して、部活だ!急げ!と急かし始めた。

さらばっ、爆速でモテ髪君になる方法、クセッ毛編。

スワイプして動画を消すと、ボサボサ頭をお湯に濡らす。

やり直し。

時間ないけど。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


リビングのドアを開けると、テーブルの上には、お母さんが作ったトーストと焼きたての目玉焼き……なわけもなく。

メモ一枚と。千円札。


『朝ご飯、今日は作ってる時間なかった。コンビニで買って』


用件のみの簡潔なメモ。今日はって……。母上。それでは、まるでいつもは作ってる様な物言いですぞ。千円札をブレザーのポケットに突っこんで、玄関へ……。

っと!

その前に。

りんを鳴らし、遺影に手を合わせた。

写真の中の父さんは、いつも笑顔。

残していったお母さんと僕を見守ってくれてる。


「行ってきます」


電気は消した?ガスは?

おけ。


毎朝恒例の指さしチェックを済ませると、スニーカーに足をねじ込み、

家を出た。

さって。朝飯。な〜にくおっかな。

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