第02話 おやすみのチューがたりない

「お、や、す、み、な、さいっと」


結局送信できたのは、ありふれたおやすみの言葉。

部員同士のグループ宛てじゃなく、幸矢先輩に送った始めてのLINE。

なのに……。

小さく浮かぶ既読の文字に……。

凹む。


「さっみ」


開けっぱなし窓から、吹きこむ風がさむい。

ベッドから這いでて、閉めに行ったら、かすかに虫の声が聞こえてきた。


「秋になってるんだねぇ」


そか。だからなんとなくもの悲しいんだ。そうか。そうだ。そのせいだっ。

自分に言い聞かせてた、その時。

スマホが鳴った。

ベッド脇に置きっぱなしのスマートフォンに飛びついた。


やたっ!幸矢先輩だ。

素早くロックを解除して、メッセージを確認する。


『なに?』

「……。なにって」

『なんかあったの?』


昼間のアレは?帰り際のアレは?

俺は気になって仕方ないのに。先輩、なんとも思ってないの?

返事に迷ってるウチに、また、スマホが鳴った。


『お〜い』


なんか……、そっけない。


『ただ、おやすみって言いたくて』

『それだけ?』

『……はい』

『まじで?』

『すいません』

『おいおい』


タップする音が、室内に冷たく響く。

やっぱ、送らなきゃよかった。


『一矢。足りないぞ』


って。なにが?


『おやすみの、ちゅーが』

「え?」


着信音と一緒に、目に飛びこんで来たのは……。

きすまぁくの……スタンプ。


『朝練、遅れんな!』


それきり、スマホは沈黙した。

はっずい。

顔が熱くて、閉めたばかりの窓をまた開けた。

ほてった頬に、夜の風が気持ちいい。 

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