第13話 五回目のおやすみなさい

机の上の置き時計が3時になったと告げている。そろそろ寝なきゃ。


一矢「ごめんなさい」

幸矢「ねむい?」

一矢「うん」

幸矢「オレも」


 電話の向こう、幸矢先輩の声も眠そうだ。


「もう寝ませんか。今度こそ」

「寝よう」

「寝ましょう。おやすみなさい」

「おやすみ〜」

「は〜い」

「ほ〜い」

「ではでは〜」

「うぃ〜」


 スピーカーの向こうから変わらず聞こえる先輩の吐息。

 しびれきらしたのは、先輩だった。


「切んねーの?」

「先輩が切るの待ってたのに」

「オレも待ってた」


 一矢の笑い声。幸矢のも重なる。


「こうしよう。3つ数えて同時に切る」

「OKっす」

「いくぞ〜。3、2……」


 1の代わりに聞こえてきたのは幸矢先輩のあくび。

 つぼにハマって、笑いが止まらない。


「笑いすぎ」

「だって。……あっ」

「なに?」

「新聞配達が来たっぽいです」

「どこ新聞?」

「知りませんよ」

「エンジン音をよく聞くんだ。配達に使うバイクは新聞社によって違うから」「へ〜。初耳です」

「でたらめだから」

「も〜」


 エンジン音が遠ざかっていく。


「行っちゃいました」

「どこだった?」

「たぶん日経こども新聞です。キコキコってペダルを漕ぐ音がしましたから」

「なんてこったい。こんな時間に幼稚園児を新聞配達に使うなんて、国連に言いつけてやる」

「ねむいす」

「ねっか」

「3つ数えましょう。行きますね。3、2、1」


 先輩が切るのを……、待った。


「もしも〜し」

「切れよ〜」

「先輩こそ」


 先輩の笑い声が僕のと、重なった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る