二 エルフの死

  二 エルフの死


 翌朝早く、鳥の声で目が覚めたアイネスは、温かい毛布がかけられているのにまず気づいた。体を起こせば、床に林檎の山盛りになった籠が置かれているのにも気づく。そう、エーデルワイスに食べ物を頼んだあと、いつのまにか寝入ってしまったのだ。部屋に戻ってきたエーデルワイスはさぞ呆れたことだろう。毛布をかけてくれたのも彼女であろうし、これはあとで礼を述べなくてはならぬ。

 起き上がって林檎に手を伸ばしたアイネスは、自然と利き腕である右手を使ったのだが、肩になんの違和感もないことに驚き、わらった。

 林檎を食べたあと、アイネスは油断なく剣を佩き、鎧を身につけて部屋を出た。尿意を催したのだ。どこで用を足せばいいのかと、ひとまず昨日グリンガルムと会った広間に下りてみる。だが誰もいない。

「エーデル?」

 声をあげてみたが返事はなかった。

 仕方なく上階に戻ったアイネスは、自分が寝ていた小部屋以外の部屋も覗いてみることにした。そこは物置であったり、なにもない殺風景な部屋であったりした。うんざりしながら四つ目の部屋の扉を開ける。どうせここも空振りだろう、この上は窓から放尿してやると思っていたところだった。

「エーデル」

 アイネスはそれきり絶句した。エーデルワイスは裸であった。どうやら着替えをしていたところらしい。小振りな胸乳から縦長の臍までが、窓からの曙光に照らされて光り輝いて、アイネスの目に鮮やかな像を結んだ。と、弾かれたようにアイネスを見たエーデルワイスの顔が、驚きから憤怒の相に変わっていく。

「失礼」

 すばやく閉めた扉に何かが激突する音がした。器物でも投げてぶつけたのだろうか。アイネスは自分の軽率さを悔いながら、廊下の壁にもたれてエーデルワイスが出てくるのを待った。

 しばらくして扉が開かれ、エーデルワイスが姿を見せた。袖のない緑色の服を着て、細身の剣を帯び、長い脚には茶のブーツをあて、片手に長弓を持っている。つまり昨日とまったく同じ装いだ。エメラルドグリーンの瞳が瞋恚しんいに燃え立ってアイネスを睨みつけてきた。

「悪気はなかった」

 アイネスは機先を制してそう謝罪したのだが、エーデルワイスの眼差しは和らがない。

「怒ってるのか?」

「当たり前じゃない!」

「それはよかった」

 もしエルフが人間に裸を見られたとして、人間が犬に裸を見られたのと同じように振る舞ったのなら、二つの種族の断絶は相当なものになる。アイネスが微笑していると、エーデルワイスがその頬を平手打ちにした。

「痛っ」

「殺されないだけありがたく思うことね」

「ああ」

 アイネスはじんと痺れる頬を撫でつつ、膀胱の張りを感じて口を開いた。

「ところで用を足したいんだが」

「ふんっ」

 エーデルワイスが下り階段のあるのとは反対方向を指さした。

「まっすぐ行って一番奥の右の扉が手水になってるわ」

「ありがとう」

 アイネスは大股で歩いていき、云われた通りの扉を開けた。


 まもなく微笑を湛えながら手水を出たアイネスは、そこに立っていたエーデルワイスに改めて礼を述べた。

「林檎と毛布、ありがとう」

「勘違いしないで。まだ死なれては困るだけよ」

 エーデルワイスはつんと澄まして踵を返すと、長弓を手に下り階段の方へと歩いていった。アイネスはその後ろにぴったりくっついていきながら、なおも声をかけた。

「グリンガルムって奴と話の続きをしたいんだが、どこにいる?」

「下の広間にいなかったの?」

「さっき見たときは誰も」

「そう。おかしいわね」

 エーデルワイスの顔が幽かな憂色を帯びた。歩く速度が上がる。アイネスも小走りになってエーデルワイスのあとを追いかけ、階段を降りてふたたび広間に立った。広間はさきほどより明るくなっていた。窓からの光りが、広間に点在する樹木のほっそりとした姿を浮かび上がらせている。床には自然の手になる光りと影の綾模様が描かれている。

「グリンガルム!」

 エーデルワイスが気忙しげな声をあげた。まるで親とはぐれた子供のようで、アイネスは胸がつきんと痛むのを覚えた。

「グリンガルム、どこ?」

 エーデルワイスは首を左右に巡らせながら、樹木の間を行ったり来たりしている。だがこの広間には誰もいない。してみると外か。アイネスは扉の方へ顔を振り向けた。折しもその瞬間、外側から銀の扉が押し開かれ、グリンガルムが姿をあらわした。だがその表情は硬く強張っており、広間に入ってこようとしない。

「グリンガルム!」

 ぱっと笑みを咲かせたエーデルワイスが走り寄っていこうとする。しかし。

「来るな!」

 エーデルワイスが打たれたように立ちすくんだ。その瞬間、グリンガルムの腹部から片刃の剣の切っ先が突き出した。グリンガルムの顔に恐怖が広がる。

 何が起こったかわからないといった顔のエーデルワイスをよそに、アイネスは剣を抜いて構えた。グリンガルムが前に手を泳がせる。エーデルワイスが一歩、よろめくように前に出た。そこでグリンガルムの表情から恐怖が抜け落ち、弟妹の身を案ずる年長者の眼差しになった。

「オライオンがいつまで経っても戻らないから、様子を見に行ったんだ。そうしたらオライオンはもう死んでいて、俺もこのざまだよ。なんとか時間を稼ごうと思ったんだが、こいつをおまえに引き合わせることになってしまった……」

「グリンガルム……」

 エーデルワイスがいやいやをするように首を振った。グリンガルムが、諦めたような優しい顔つきになる。

「エーデル、逃げろ」

 そしてグリンガルムは前のめりに倒れ伏した。その向こうに男が立っている。灰色の髪を総髪にした人間の男だ。黒い革の服を身につけており、ほっそりとした体つきながら鋼の強靱さを感じた。整った顔に嵌った紫色の双眸がアイネスたちに据えられる。アイネスは人間というより、なにか獰猛な獣を相手にしているような印象を植え付けられた。

 男はグリンガルムの体を跨ぎ越して広間に入ってくると、片刃の剣をひゅんと振り、その刀身に視線をあてた。

「角耳というのは奇妙なものだな。赤い血が流れない」

 成人した男にしては妙に透明感のある、女性的な声だった。

 アイネスは我に返ると厳しい声で問い質した。

「おまえは何者だ。オードの仲間か」

「オード」

 男は紫色の目を何度かまたたかせた。やがてその無表情に初めて表情らしきものが浮かぶ。それは微笑だった。

「そうか、おまえがアイネスか」

 やはり仲間なのだ。アイネスはぐっと奥歯を噛みしめ、全身の毛を逆立てながら噛みつくように喋る。

「オードはどこだ。それになぜエルフの里を襲った? 奴はなにを考えている?」

 男は答えず、エーデルワイスに視線をあてた。その途端、それまで虚けたように立ち尽くしていたエーデルワイスが稲妻のような動きで弓に矢をつがえ、引き絞って放った。

 男はまばたきもせずに片刃の剣を振って矢を弾き落とした。エーデルワイスは間髪を容れずに二の矢、三の矢を放つ。流麗で素早い、熟練された弓使いの動きだ。矢は魔法のように間断なく放たれる。その数七本。その全てを、男が草でも薙ぐように切り伏せていく。

「ちっ!」

 エーデルワイスは三本の矢を同時につがえると、薔薇色の唇を高速で動かした。すると鳥の啼くような声がして、放たれた三本の矢がばらばらに動き出し、三方向から同時に襲いかかった。対応できるわけがないとアイネスは咄嗟に思った。だが男の細い右腕が鞭のようにしなって、片刃の剣が三本の矢をまとめて払い落とした。

 一瞬、場はしんと静まり返った。

「なんだこいつ」

 アイネスの声は戦慄に強張っていた。エーデルワイスも言葉を失っている。

 と、男が矢の一本を拾って逆手に持ち替えた。アイネスははっと息を呑み、「エーデル!」と警告の叫びを発した。呆然としていたエーデルワイスが我に返るが早いか、男の左腕が勢いよく振り下ろされ、矢が投げ槍よろしく飛んできた。それをエーデルワイスは早業でつがえた矢で打ち落とす。鏃同士がぶつかりあう穏やかでない音が炸裂した。

 エーデルワイスはさらなる矢を放とうと矢筒に手を伸ばした。その指が空を切る。

「あっ」

 エーデルワイスの喉から細い呻きが漏れた。矢が尽きたのだ。

「これでおしまい」

 男が片刃の剣の切っ先をエーデルワイスに向けた。エーデルワイスは唇の端を引きつらせつつも長弓を放り捨て、腰から細身の剣を引き抜いた。

 そのエーデルワイスを庇うようにして、アイネスは剣を構えて立った。踏み出そうとしていた男が足を止め、紫色の瞳でアイネスをひたと見据えてくる。

「どいて!」

 後ろから声がしたかと思うと、エーデルワイスが体をぶつけてきた。だがアイネスは岩のように動かない。弾き飛ばされたエーデルワイスがよろめきながら乱れた声で喚く。

「邪魔しないで! オードって男のことが訊きたいんでしょうけど、こいつは私が――」

「そうじゃない。おまえを守る」

 アイネスは男から目を切らずに云った。エーデルワイスの顔に驚きが広がった。それを視界の端に収めたアイネスは、幾許かの満足感を覚えて微笑んだ。

「剣の勝負じゃおまえには分が悪い。さがってろ」

「どうして」

「そうだ」

 エーデルワイスの声に、男の声が被さった。

「どうして人間のおまえが角耳を庇う? 俺の目的は角耳であっておまえではない。オードのことなら後で話してやる。だから」

「だまれ」

 男が口を閉ざした。耳に痛いほどの、しんとした静寂が訪れた。アイネスは冷え切った眼差しを男に注いで、両手で握る剣の重さと、身裡に燃える炎の熱とを感じていた。

 強敵である。アイネスがどうしようもなかったエーデルワイスの矢の魔術を軽々と凌いだ男なのだ。間違いなく自分より強い。だが。

「エルフとか人間とか関係ない。黙って見過ごすと思うな!」

 アイネスは眼前の敵に向かって我が身を矢のように放ち、勢い縦の斬撃を繰り出した。それを回りながら横へ避けた男は、体の回転する勢いを利用して横様に斬りつけてくる。アイネスがそれを紙一重でかわすと、大振りを外した男の体勢が崩れた。それを好機とみたアイネスは、剣を振りかぶって男をその背後に植わる若木もろとも両断しようとした。

「木を斬らないで!」

 エーデルワイスの放つ鋭い声にアイネスはたたらを踏んだ。その一瞬を活路として体勢を立て直した男が、一転して切り込む構えを見せ、片刃の剣を高々と振り上げた。アイネスの視線がそれに釣り上げられる。そこへ下から黒いブーツの前蹴りが金的めがけて飛んできた。咄嗟に両膝を閉じて防いだアイネスが見たものは、目と鼻の先にある男の凄絶な微笑だった。今度こそ片刃の剣が、アイネスの顱頂ろちょうを割らんと振り下ろされる!

 その直前、アイネスは右手の剣を男の脇腹へねじ込んだ。男が身をよじってそれを躱す。すると男の剣筋が歪んで、アイネスの体に刃が食い込むのが僅かに遅れた。活路は、ここにしかなかった。

 アイネスは針孔に糸を通すつもりで体をぶつけて、もつれ合いながらもろともに転倒した。天佑があり、アイネスが上からのし掛かった。かと思うと膝の打撃が打ち込まれ、一転して男が馬乗りになる。だがアイネスは絶望しなかった。男の背後、天井を背景にして、エーデルワイスが細身の剣を男の背に突き立てようとしている!

 ところがその気配を察知したのか、男はアイネスの上から素早く体をどけるとエーデルワイスに斬りつけようとした。一方、目標を見失ったエーデルワイスの瞳には戸惑いが浮かんだ。彼女の剣の先にはアイネスがいる。そしてアイネスは身をねじって起こしながら、右手の剣で男を追いかけた。

 三人が三人、それぞれ別々の相手に斬りつけようとしていた。そのなかで一番をもぎ取ったのはアイネスだった。

 手応えあり! アイネスの剣が男の右腕を切り裂いた! 当然、男の剣はエーデルワイスに斬りつけることもなく引かれる。エーデルワイスの剣はアイネスが寸前に身を横たえていた床石の上に突き立ち、派手な音を立てて折れ飛んだ。

 すべては、一瞬のことだった。

 しかしアイネスが立ち上がったときにはもう、男は血の滴る右手から左手に剣を持ち替えつつ、広間の入り口のところまで後退していた。ちょうどグリンガルムがうつぶせに倒れているあたりだ。このままでは逃げられる。

「名前くらい云え!」

 すると男の口元に笑みが刷かれた。

「俺は番犬。名前はまだ無い。どこで生まれたのかとんと見当もつかぬ」

「ふざけるな!」

 くく、と番犬が喉の奥で嗤う。

「また殺しに来る」

 番犬は身を翻して広間を飛び出していった。アイネスはそれを追ってグリンガルムの体を飛び越え、塔の外壁に突き出した足場に立って辺りを見回した。だが番犬の姿はどこにもない。まるで夢の住人だったかのように忽然と消え失せている。

「くそっ!」

 苛立たしげに足場を踏みつけたアイネスの耳に、幽かな呻き声が聞こえてきた。アイネスは背後を振り返り、広間の戸口に倒れ伏しているグリンガルムに目を留めた。そこに命が息づいている。

「おい、生きてるのか!」

 アイネスは剣をしまうと急いで片膝をついてグリンガルムの体を抱き起こした。体が長いわりに重たくない、やせぎすのエルフだった。まだ息があるが、おそらく助からないだろう。アイネスは諦めた目でグリンガルムの胸元を覗き込み、息を呑んだ。血が流れていない! いや、体液が溢れて緑色の衣を濃く変色させているのだが、それは赤い血ではなく、なにか別のものなのだ!

「グリンガルム」

 エーデルワイスがよろけながら走り寄ってきてグリンガルムの傍に両膝をつき、その手を両手で包み持った。巴旦杏アーモンド型をしたエメラルドの瞳にみるみる涙が盛り上がっていく。

「グリンガルム」

 エーデルワイスが懇願するように再びその名を呼んだ。するとグリンガルムの指が力なく動いて、エーデルワイスの手を慰めるように撫でた。

「俺はもう死ぬ」

「いやよ!」

 エーデルワイスは頑是無い子供のように首を振った。

「一人になってしまうわ。みんないなくなって……グリンガルム!」

 グリンガルムは首を動かしてアイネスを見た。

「頼む。ここはいやだ。日の当たる場所に連れて行ってくれ。土の上に」

「わかった」

 アイネスはグリンガルムの長い体を抱き上げ、立ち上がった。手を振り解かれたエーデルワイスが恨めしげにアイネスを見やる。アイネスは彼女についてくるよう目で促すと、広間を出て外階段を降り始めた。

 地上に降り立ったアイネスは、道から外れて緑の芝生の上にグリンガルムを横たえてやると、片膝を立ててグリンガルムの青白い顔を覗き込んだ。

「これでいいか?」

「ああ、ありがとう」

 そう云ってから、グリンガルムは低く笑ったようだった。

「人間に里を滅ぼされて、人間に礼を述べるとは……」

 そこでグリンガルムの瞼が閉じた。高い鼻から息が漏れる。そのまま、次の息が吸われることはなかった。静寂がアイネスを押し包む。エーデルワイスが傍らに立った。彼女はグリンガルムの顔を覗き込み、不思議そうにまばたきをしている。

「グリンガルム?」

 エーデルワイスがそう声をかけても、グリンガルムは目を開けなかった。

 死んだよ、と告げるべきかどうか、アイネスは迷った。エーデルワイスの心がそれに耐えられるかどうか判らない。彼女が自然とそれを悟るまで待つべきだろうか。グリンガルムの死顔を眺めながら考える。その死顔に、突然、変化が兆した。グリンガルムの顔の皮膚が変色していく。その変化は顔だけではなく、手にも足にも現れていた。

「なんだっ」

 アイネスは驚いて飛び退いた。一方、エーデルワイスは落ち着き払った様子でその変化にじっと眼差しを注いでいる。グリンガルムの皮膚は木の幹を思わせる質感へと変貌を遂げつつあった。それだけでは終わらない。全身の形状が崩れていく。耳が尖っている他は人間と酷似していたエルフの肉体が、人間の形を捨てる。

 そしてグリンガルムの臍のあたりから大きな芽が吹いた。それはみるみる生長し、一本の若木となって蒼穹に聳えていく。グリンガルムの手足は根となり、緑の芝生をかき分けて土に潜る。唖然とするアイネスの前で、若木はぐんぐんとその丈を伸ばし、アイネスの背丈をも追い越して育った。アイネスの見上げる先で枝が四方八方に広がり、金色の葉が競うように生い茂る。そこでやっと変化が収束した。風が吹き、梢がざざっと音を立てる。

 グリンガルムは金色の葉を持つ若い喬木になった。

 アイネスは顎を落として金色の葉のきらめきを漫然と目に映じるばかりである。

「これがエルフの死よ」

 エーデルワイスの声がアイネスをやっと我に返らせた。エーデルワイスは木の根元に屈み込み、そこにぼろきれのように纏わりついていたグリンガルムの衣を拾って集め、胸元に抱きしめた。金色の長い髪に覆われた背中が儚い。

「エルフは人間とは違う生き物だわ。あなたたちは死ねば腐って土に返るのでしょうけど、私たちはこうなるの。樹木や草花に生まれ変わるのよ。そしてどんな不毛の大地にも根を張り、花を咲かせ、種を落として、この世界に緑を広めていったの」

 アイネスははっとして辺りを見回した。塔の入り口となる扉の前や、白い煉瓦の敷き詰められた道の上に植物が点在している。グリンガルムと最初に会った広間もそうだ。屋内なのに木が植わっていたり花が咲いていたりした。それはみんな、そこでエルフが死んだという証だったのだ!

「だがこんな話は聞いたことがない」

「あなたたちが忘れてしまっただけよ。この世界のすべての植物が、私たちエルフの亡骸を起源としているってことを」

「そうか」

 エルフが森を侵す者に対してなぜあれほどの敵意を懐くのか、アイネスは初めてわかった気がした。人間の感覚で云えば墓荒しなのだ。父祖の墓を暴かれれば誰だって怒る。それと同じだ。

 幽かな嗚咽が聞こえる。エーデルワイスがグリンガルムだった樹の前で座り込み、さめざめと泣いていた。その後ろ姿にアイネスは憐憫と申し訳なさの混じった視線をあてた。

「すまんな」

「どうして謝るのよ」

「なんとなくだ」

 太陽は輝きを増しながら蒼穹を昇っていく。気まぐれな風が木々の梢を揺する。エルフの塔は静かに建ち並んで光りと風とを受け止めていた。森の木は、かつてエルフだったものもあれば、エルフの生まれ変わった木から新たに生まれたものもあるのだろう。

 すべては変わらずそこにあった。

 けれどここには、アイネスとエーデルワイスのほかは誰もいなくなってしまった。

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