第64話
商工会議所の日本語講師職が近いうちになくなると知らされて、私は、「日本か台湾か」というすべての出発点に立ち返っても悩んだ。立ち返ってはいけないのに…… 求人の絶対数が乏しい、山がちな里の風景を眺めていれば、潔くあきらめて、職の多い都市を見据えるのは自然な態度とも言えるのだけど。
父は不治の病・肺気腫で寝たきり。6歳下の母が献身的に介護している状況で、もし蘭が、台湾へ帰るのに同意したとしても、相当後ろ髪を引かれることになる。良心の呵責にも苦しむのは明白だ。
だが、この機を待ち構えていたかの如く、〝台湾へ帰りたい! フィーバー〟が私の中で燃え盛り始めた。3年以上、濃くも薄くもなりながら、確かに一途に胸に灯っていた光だった。
台湾には、桂がいる。
約10年暮らした台湾。
そこで起こった数々の事象のうちのいくつかが記憶から抹消してしまいたい類のものであっても、台湾は日本(母国)での生活と遜色ない快適さで、自分のカラーに合っていたというか、きっと前世もここにいたのだろう、と無理なく解釈出来る調和感があった。四声と呼ばれる発音の向きから生み出されるのであろう中国語の美しさに囲まれた日々は心地良いし、繁体字の筆順が多い漢字に彩られた世界は魅惑的で、なんとも形容し難い、懐かしようなロマンを感じる地、台湾。
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