第65話
そもそもまず考えたのは、大阪か神戸に出ることだった。
ご主人が亡くなり、一旦は大阪から一人娘を連れてこちらの実家に帰って来ていたある同級生の妹は、市の観光協会の業務を任されて精力的に働いていたが、
「この状態では給与でもキャリアでも先が見えてる。」
と、もう一つ取得したかったというパソコンの何たらという資格を取り、娘さんが小5の時、再び大阪に戻って行った。
それを機に交信は途切れたが、一昨年だったか、彼女のお父さんと話す機会があった際、娘さんを中高一貫校に入れた、と聞いた。それも私立難関校で、授業料や家賃を想像すれば、よほど高給取りでないと成り立たない生活なのは明らか。彼女の行動力や‘使えるスキル’、それゆえの成功を羨ましくも誇らしくも思った。
中国語ができると、あちこちのホテルからラブコールをもらった。大阪なら年齢はまだ足を引っ張らないようだし、積極的に面接を勧めてくれる職場があることを知った。新卒で勤めたのがホテルだったので、不安はないし、接客業は好きだったが、ホテル業界の給与で、阪神間に部屋を借りて生活するのは、経済的に厳しい。私はフルタイムで働き、家事ももう母には頼れない。
躊躇していた時、蘭が言った
「大阪行くなら、台湾に帰りたい。」
まさにそうであった。その通りだった。私にとっても、蘭にとっても、実家を離れるなら、福岡でも大阪でも名古屋でも東京でも大差なく、選択肢は〝ここか台湾〟だった。
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