第53話

あの時の自責の念は強烈だった、日本の母にも詳細を話した。

「バカな事してしもた…… あとちょっと、あと数日間大人しくしてるだけでよかったのに……」

「でも、あんたたち3人は日本へ帰らせてもらえるんやろ?」

母も不安気だった。

日本へダンボール箱に詰めて、母娘3人分の荷物をすでに船便で送っていたし、日本語ができることは、将来娘たちにとって大きな強みになるとジャックは考えていたのを盾にする勢いで、予定していた日時の関空行きの便で台湾を発った。

それにしても、あの夏の夜の悪夢は、10年近い時間が流れても、こうして記憶をたどり、当時の修羅場の絶体絶命的情景の中にタイムスリップするだけで、呼吸が苦しくなる。


桃園空港から機体が離陸した時は、映画さながらのスリルと逃げきった感があり、いくらかは安堵したが、幕開けがこれである、続く日本での生活が楽しさに満ちた安泰な日々にはならない予感はあった。そして、それは見事的中した。

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