第47話
COCOは豊かな尻尾を大きく振りながら初対面の桂に吠えた。SKYPEで見たことがある顔だなんて、COCOにはわからない。でも、尻尾を振っているということは、不快ではない。あれ、ちいちゃなお姉ちゃんが増えたぞ、とでも思っただろうか。犬は犬を好きな人を瞬時に見分ける(嗅ぎ分ける?) というのは真実ゆえ、近寄って自分をこぼれる笑顔で撫でる桂をCOCOはすぐに受け入れたと思われる。
病床にある父(桂の祖父)も、酸素吸入パイプを鼻腔に挿し、横たわったまま、2人しかいない孫が久々に揃ったことをたいそう喜んだ。母も夕食を作って待っていて、歓迎した。この5人でずっと暮らせたらどんなにいいだろう、と改めて痛感した。
10日間の台湾滞在はとても素晴らしかったが、実家に帰るとひとまずホッとした。最も暑さの厳しい時期の台湾と日本の気温に大差はないものの、山に面した田舎の一軒家は、日暮れると猛暑は止み、深夜から早朝にかけては寒いくらいで、気をつけねば寝冷えして夏カゼをひいてしまうほど涼しい。マンションの11階に住み、鉄筋コンクリートが焼け、終日30度を下らないような環境にいる桂に、天然の納涼オアシスを満喫してほしかった。
前回まで母娘3人で寝ていたが、自室を持った蘭が早くから、
「私の部屋で、桂と2人だけで寝たい!」
と言っていたので、そうさせた。姉妹水入らずもいいだろう。それに、私はリビングのケージの他に、COCO就寝用としてそれの半分くらいのケージを購入し、その横に私の布団を敷いて並んで寝る習慣ができているので、ひがんだりはしない。末っ子が私に添い寝する、という感覚に近い。
言うまでもなく、蘭はまだ1学期後半、夏休みまで10日ほどあった。朝に強く、登校しなくてはいけない姉は6時には起床した。
以前から寝付きが悪く、朝には弱い桂は、放っておけばいくらでも寝た。彼女を起こす苦労は解消しそうにない。
蘭のおさがりなどを加えて、選択肢がグンと増えた桂の衣服事情。
私は毎日、彼女のコーディネートに喜々として励んだ。蘭とちがい、桂は選ばれた服に文句を言うことは1度もなかった。私の母は昔から配色などにうるさく、幼稚園児の私に,
「これとこれは同系色だから、よく似合うわ。」
とか、
「この柄モノに、これはヘン、だってね……」
とミニ講義をしょっちゅう敢行した。私は抵抗せずにおとなしく聞いていた。
あの当時の母が乗り移ったような母親に、私も成長(?)した。血は争えない。蘭は徐々に色の合わせ方、〝これはおかしい〟という感覚を吸収して言ったが、最初から私に揃えられて、はいはい、と素直に従うのが癪にさわるのだろう。姉妹の性格の違いは、こうして至る所に表れる。
「ねえママ、これにこの下、合う?」
などと時々意見を求めてくる蘭。桂の反応にせよ、蘭にせよ、母親としてのささやかな醍醐味を味わっている。
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