第33話

蘭がそう何度目かに言った時、正否は置いておいて、私は、

「誰もがつらかったの。あんただけじゃない。あんた、これからも何もかも一生ママたちの離婚のせいして生きて行くの? 」

と声を荒げた。

「もしそうなら、あんたは成長できない。そこで止まったまま、それだけの大きさしかない人間で終わるよ。」

自責の念を感じながらも、真に娘のこれからを案じて言った。どこまで通じたかは不明だけど、これはしっかと肝に銘じてほしい。


最長の3年ぶりの再会を果たせたのは、7月2日だった。羅振昌弁護士だ。6月末日に電話をかけて、2日午後1:30にアポが取れた。

私が29日台湾へ行くまでは、台北にしては比較的涼しかったらしいが、

「あなたが来たくらいからグンと暑くなったわ。」

とおおぜいに言われた。

7月2日もそれはそれは酷暑だった。羅弁護士に教えてもらったとおり、MRT松山線に乗り、松江南京駅で降り、5番出口を出た。徒歩10分もあれば着く、と聞いたが、一向に住所の番地が見つからない。

台北の通りは、例えば、右手は奇数の番地、左手は偶数、と統一されている。羅弁護士の事務所が入ったビルは偶数だったので、そちらを歩いた。

なのに、気がつくとそれを通り越していた。重症の方向音痴ゆえ、だいたい迷うのには慣れており、またか、と舌打ちしたが、ギンギンギラギラと亜熱帯の熱射を受け、また引き返したり、念のためと少し奥まった辻を歩いていると溶けてしまいそうに暑かった。嫌ンなる容赦ない日差しなのだ。


結局、件のビルの番地表記が目につきにくい場所にあり、行き過ぎてしまっていたことに気づいて、辿り着いた。チャコールグレーのどっしりしたビルで、石造りだからか、幾分涼しさを感じられた。

2つあるエレベーターの手前のに乗り、5階へ。事務所の表にその名称と羅弁護士の氏名を認めた時は、再度安堵した。やっと会える。


自動ドアはすんなり開いたが、電気が消えていた。女性職員がすっと現れ、名乗っていると、声が聞こえたのか、羅弁護士が小部屋から出て来てくれた。どうやら1:30までがお昼休みだったようで、一斉に灯りが点いた。

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