第15話

1ヶ月の日本滞在を長い、とクレームをつけるのはまだカワイイ方で、日本行き自体を反対する恐れもあったが、第1関門は突破した格好だった。

しかし、台湾での航空券購入を拒むなら、計画は頓挫。腹は立つわ、途方にくれるわ……

ジャックに代わって桂の航空券を台湾で買っておいてくれる人を至急探さねばならなくなった。有り難いことに、何人かの顔が浮かんだ。頼めば、みんな快諾してくれそうに思う。ただ、多忙なのは誰も同じだった。心苦しい。が、無理を承知でお願いしないと桂も日本側もショックは大きい。


何人かの候補の中で、現地での航空券とその費用の受け渡しが最もスムーズに出来るのが劉教授だった。私が借りていたアパートとジャックと桂が住むマンションは目と鼻の先。かつて、アパートに用があり、劉教授や奥さんが来る時はいつもバイクで、自宅が近いことは知っていた。

また、例の旅行代理店はそのアパートの真向いにある。同年代の知人に依頼するよりずっと気は引けるが、物理的な距離からすれば負担は大きくないと思われた。


メールをしたためる。劉教授に申し訳なくて、ジャックを恨みながら……

返信はすぐあった。しかも、すばやく行動開始、旅行代理店に行ってくれて、窓口であと何々とこれこれが必要らしいから知らせてほしい、とメールが来た。頭が下がった。手を合わせた。


言うまでもなく、劉教授は私が台湾で立て替えてもらっていた航空券代を返すと信じてくれた。当然だと言えば当然なのだが、ジャックはきっとそれも疑い、旅行代理店に行く手間も疎んだ。桂を日本へ連れて行きたいなら、勝手に手配を整えて連れて行け、というわけだ。

劉教授はもとより、この一件を聞いて誰もが驚いた。というか、呆れた。

「父親なんだから、彼が飛行機代くらい持ったっておかしくないよ。」

と言う人も数人いた。


無事、桂を迎えに台北へ行き、宿泊しているホテルのロビーで劉教授と再会し、航空券を受け取った。その代金もきっかり渡した。頭をひたすら下げる私に、

「そんな恐縮することでもないよ。僕が出来ることはする。それだけさ。」

と笑い、劉教授は相好を崩した。

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