第14話

劉教授との交友はメール中心に密に続いている。大方、メールを送れば数日中に返事が来る。面白いネット上の記事や動画を添付して見せてくれることもある。

大学では理財を主に教えている。教科が何であれ、ぜひ劉教授の講義は聴いてみたいと常々思っている。ふだんの彼の所作や取り上げる話題を総合したら、大層興味深く面白いと想像できる。あの人間性が生むものも大きいはずだ。


離婚した年以後、3度夏が訪れた。

最初の夏、蘭は留守番。私だけ台湾へ行った。

次の年は、桂が日本に1ヶ月遊びに来る計画を立てた。桂は無類の犬好き、かつ台北のような過密都市より私の実家がある土地みたいな山や緑豊かな場所を好んだ。2人の娘たちより早くわが家に来た柴犬のフウは、桂の宝物で、フウに会いたがってもいた。

私は桂と相談して、パパの機嫌の良い時に「夏休み日本行き計画」を提示し、同意を得ることにした。蘭の協力も大切だ。子煩悩なジャックゆえ、桂を日本に来させる件について、蘭にもそれを推す発言をどんどんしてもらわねばならない。


面接交渉権関連でさしたる不服はなかったが、桂を日本に呼ぶのは周到な作戦を要した。どうせ滞在するなら、30日オープンの航空券を買って、ゆっくり日本の夏を堪能してほしかったし。

だが、ジャックはそれを長過ぎると言いかねない。虫の居所が悪いと、なんグセをつけて来る。娘たちも十分承知している。


2回目の夏、すなわち2014年は、ジャックが渋々OKし、桂は日本の祖父母宅に来られることは決まった。私は喜び勇んで旅行代理店に走った。そこで、なんという事だろう、台湾発の往復航空券を日本で購入できない仕組を初めて知ったのだった。長年台湾に暮らしていたせいか、そういう取り決めにぶつかることはなかったのだ。

深いため息が出た。急いで帰宅し、SKYPEでジャックにその旨を伝え、

「…… というわけだから、そっちで桂の航空券を買ってほしいの。私が台湾でその費用は返すから。」

と頼んだ。問題ないと思っていた。

なのに、前夫は拒否したのだ。「は?」 どうして? 自宅マンションの隣りのビルの1階には旅行代理店がある。お金も必ず返すのだ。

なのに、頑なに突っぱねる。


改めてジャックのへそ曲がりと冷淡さを思い知らされた。

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