第8話
離婚して3年以上経ったが、今でも身の上話をしていると、
「養育費は?」
と訊ねられる。
養育費はもらっていない。財産分与ももちろんなかった。
台北の自宅最寄りのマックで、ジャックと会い、離婚に関して話したことが一度あった。4階席まである、常に混んだマックだった。その時、蘭の養育費は?と小さな声で訊いた。ただでさえ活火山みたいな夫だ。機嫌を損ねさせる類いの発言をする時はビクビクした。意を決して訊いた。
「君に養育費を渡すくらいなら、僕が蘭を育てるよ。」
と剣もほろろだった。
「何年か前、日本の銀行で君名義でファンドに出資してもらった、あれはやるよ。」
名義が私だったので、そうするしか仕方なかったのだ。
帰国後、児童扶養手当(通称・母子家庭手当)受給申請が受領され、満額もらっているが(誠に情けない。私の収入が少ないからだ), 持病があり、以前から体力もない体質。その上、年齢の問題や居住地が田舎で、仕事の絶対数そのものが少ないため、非正規雇用者で不安定、低収入ゆえ、何度も養育費を請求しようか迷った。
2人の娘が父親にひとり、母親にひとり、となったので、SKYPEやLINEで日常的に連絡を取り合える。私とジャックは交信しないが、パパと蘭、ママと桂、そして姉妹の会話は常時可能だ。夏休みに蘭が台湾へ行ったり、桂が日本に来たり、いずれにせよ私も台湾へ年に一度は行く。二胡を習っていたので、台湾へ行くたび、師匠に稽古をつけてもらうし、10年も暮らした居心地の良い土地だ。帰ると嬉しいし、知人も多い。台湾ならではの美味も恋しい。
こういう情況ゆえ、ジャックと話そうと思えば即OKだから、養育費がちらつく。日本人も、台湾や中国の知人も、
「え? なんで? もらわなかったの? バカね〜。あっちにしたら当然の義務、あなたには当然の権利。女手ひとつじゃ大変でしょう。」
と言う。
しかし、日本で、離婚後養育費をもらっている子育て役の母親はわずか2割だそうで唖然としたが、だからと言って泣き寝入り、というのも癪だと思う。ジャックがいくら財産を持っているか知っている。私より一桁多い。そして、彼は今も自主的失業中で、在宅株転がしの優雅な身なのだ。
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