第6話

離婚しようと考えて結婚する人は、ごく特殊な企てでもある一部の人以外いない。かく言う私も、「離婚とは芸能人か、人間的に大きな欠陥のある人がするもの」たるが大方の見方であった時代に幼少期を送った。

ところが、旧家の一人っ子に生まれてしまった私は、29歳の時に婿養子に来てやるとの好条件の相手と見合い結婚し、4年足らずで別れている。今さら潔くなくて不徳の致すところではあるが、披露宴当日になっても喜びやさしたる感慨は湧かず、純粋に家のため、跡取りを残すために思い切った、いや諦めた結婚だった。


破綻の原因は、一人っ子の重責を感じるあまり、勇気を出して結婚に「NO」と拒否できなかったことのみではなく、先方親族の厄介な諸事情の煽りを次男夫婦である我々が受ける構図になっていたし、夫は高校教師としての資質は十分持ち合わせて立派だったが、いち家庭の男としての魅力や付加価値は平均を大きく下回り、夫婦となったあとに育まれると言われた“夫婦愛”らしきもの、さえ見えてこなかった。

私は、自律神経失調症、仮面うつ病(これもれっきとした医学用語だ)に胃潰瘍を患った。打開策を練るのに実に苦心したが、夫婦間の問題を夫と共有、共感できずじまいで、幕引きとなってしまった。


よって、台湾で私は再婚したわけだった。私のポリシーには複数回の離婚は絶対あり得なかったので、肝に銘じて2人目の夫ジャック(呂賢成)との生活に入った。

だが、ジャックと寝食を共にする苦行から脱することが、私にとっては惑星に行くのと同等程度に難しいと諦観し始めると、初婚の失敗が意外な効力を発揮するようになってきた。非常に不謹慎であるが、離婚に対する恐怖が初婚者に比べて相当少ないことに気づいたのだ。初産の妊婦より、2人目以降のそれが出産への怖れをほとんど抱かなくなるのと似ているかもしれない。時代の流れで、バツ2、バツ3の人がそう珍しくなくなったからというよりも、私同様、精神科にかかった方が良さそうな夫(彼を知る数人が異口同音に言った) と生きるのが辛かった。


愛しい年子の娘たちを思い、かなり危なっかしい綱渡りな日々を続けていた中で、夫と単なる同居人となって4人の暮らしを維持させられないか、との、私には妙案が浮かんだ。性的つながりのない、子供たちのパパとママとしてのみともに生活する関係になる、ということ。このご時世、そんな夫婦はきっといる。

「あなたへの愛情はもう冷めてしまった。でも、娘たちは宝。家庭は存続させたい。外に女の人を作ってもかまわない。好きなだけ遊んでもいい。今後は同居人として暮らしたい。」


しかし、ジャックはこの提案を蹴った。彼は妻に愛されたかった。それがあっての家庭だった。


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