第5話
国際結婚して早々にジャック(呂賢成)の短気で横暴で気分屋な性分に振り回され、心無い言葉に傷ついていた私は、関係改善を目指して、話し合いに持ち込んだり、手紙で思いの丈を綴ったりした。DVが広く認知され、結婚生活末期に『言葉の暴力』との語彙も日本語で知り、殴られたり、蹴られたりするのだけがDVじゃないんだ、私もDV被害者なんだ、と精神的負傷をやっと社会的に認められた気がして、まるで支援者を得たような心強さを感じたものだ。
さて、夫婦関係改善の取り組みだが、いずれも失敗に終わった。
新婚しばらくは、私の中国語力が充分でなく、ケンカは中盤からもどかしくなり、関西弁で挑んでいたが(よって、ケンカは事実上中断した)、だんだん言語の問題はなくなり、口頭でも文面でも、我が意を伝えられた。
だが、私は伝えたと満足感に一旦浸っても、ジャックに真意は伝わらなかった。私は言葉の問題ではなく、互いに考えている次元が違う、と悟った。
これまで、恋人や同僚、友人の間での諍いにおいて、腹を割って話せば、どちらかかどちらもが非を認めたり、謝ったり、許したりしてきた。同じ土俵で対話ができた。だから、今回も最後には解決可能だと信じていたのに、夫は異なる星の住人の様だった。話し合っているうちに、どんどん私の分が悪くなり、こちらがクレームを出しているのに、毎回気がついたら、私が彼に叱られていた。責められて、彼は立腹もし、融和どころか、私はさらに居たたまれなくなった。
10年近い婚姻生活の後半3分の一くらいは、無駄な試みはやめた。通じないのだから仕方ない。もちろん、というのか、彼に触れられること、同じ寝床で寝るのも生理的に苦痛になった。いつ夫が誘ってくるのか、毎日ビクビクした。次はどんな口実を使おうか、常に備えておかねばならなかった。
そのうち、私の拒絶に彼は反応し、
「アメリカでは2年間夫婦に性生活がないと、離婚を申し立てられるんだよ。」
と脅すように不満を言った。彼は2年余り、米国留学の経験があった。
夫の歯に絹着せない、刃の如き言葉に心身ともに病み、それを何とかしたい、と行動はしたが、夫が望む夫婦生活問題の解決には至極消極的だった。心配した父に病院へ行くように言われたが、行かなかった。夫とそういう行為が出来るとは思えなかった。したくなかった。
よって、いつかは来る破滅を常に意識しながら、可愛い娘たちだけが私とジャックをつなぐ、という数年間を綱渡りみたいに進んだ。
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