第4話

三軍總病院は、台湾大学付属病院と並ぶ、台湾医療機関の最高峰である。

夕飯の支度中に倒れて、私は三軍總病院精神科を知人の勧めで受診した。

外出が億劫だったり、両腕が痛かったり、転びそうになるほどの眩暈などの兆候はあった。倒れてしばらくは、生への絶望感に襲われ、思考の焦点が合わない変な感覚に支配されていた。


月一回の通院、カウンセリングと投薬で治療は進んだ。毛医師は、精神医学界生え抜きの名医、という貫禄と、腰が低く、穏和な性質が絶妙に同居していた。私は毛医師を信頼しきることができた。

一般の風邪くらいなら、日本円で当時450円払えば、薬ももらえたが、精神科の薬は高く、毎月1500円くらいかかった。

薬に対する抵抗はなかった。以前と異なり、改良が進み、依存性や副作用は減ったというし、医師が支持する規定量を守れば問題ない。それを疑ったりはしなかった。実際、治療開始以降、症状は緩和したし、副作用を心配するような症状はなかった。第一、ぐっすり眠れて、日常生活に支障を来たす不調が消える方が、将来の副作用を案じるより重要だった。


私は夫に、うつ病の原因は、彼との生活のストレスが多分に関係していると言うと、

「君はもともとそういう体質なんだよ。」

と取り合わなかった。彼は“絶対”だった。悪者はいつも私だった。


発症から5年半以上が過ぎた。日本に帰ればすぐ治る、と踏んでいたのに今なお新たな主治医のもとで治療を続行中だ。

そして、結局、次女・桂の親権は得られず、台湾に置いてきたままゆえ、離婚は成立したが、離婚よりも長く痛みを伴う時間と状態も続いている。

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