第73話
今年いっぱいで講師を引退したい、さらに良き指導者について精進されたい、と2人のお弟子さんに伝えると、たいそう惜しまれた。二胡談義のみならず、身の上話も気兼ねせずできる間柄になっていたからで、私も寂しさを抑えるのが容易ではなかった。2人とも50代半ばで、二胡の授業を離れれば、人生の先輩でもあった。
初秋の頃、
「来春、長女と台湾に戻るかもしれないんです。」
とこぼしてしまったゆえ、
「ある程度、覚悟はしてましたが、こんなに早く……」
と、やはり嘆かれた。
音楽教室をとり仕切る若女将には、またも慰留されたが、私の婉曲な教室側の生徒集めの勢いの無さを悲しむ言葉に、ようやく自由に巣立たせてもらえることとなった。角が立たないよう、最大の理由は来春の台湾移住計画にあるとした。
3年あまり務めたニ胡講師を下りるのには、様々な感慨に浸る必要があったが、これも一つのスタートだ、と切り替えるしかなかった。
さて、書店の高瀬店長との2度目の面談で、‘11月は教育係について仕事を覚えてもらいます、この希望出勤日を見ると、11月は8日間シフトに入りますから、極力この8日間で基本的な作業をモノにしてください’と言われた。
店長が、最もマニュアルに忠実で丁寧な仕事をする、という宮下という男性がその教育係だった。高瀬店長の夫人もたまに店に出て働き、どんな作業にも精通していたが、宮下さんはいわば店長代理のような存在で、社員だった。店長はだいたい週に1日休暇を取る。その日に閉店時間の午後8時まで、開店から通して勤めるのが宮下さんだった。
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