第74話
初出勤日は11月14日、奇しくも忙しい土曜日だった。
しかし、全行程、私は宮下さんと一緒…… というか、宮下さんをひとりとカウントする際、よく見ると、彼の陰に私がくっ付いている格好だった。だから、それほど混乱した事態にはならなかったが、お客さんにすれば、エプロンを着けて店内にいると、新人だかベテランだか、そう簡単には見分けられないようで、いろいろ尋ねられて困った。新着の書籍を並べている時などは、宮下さんと私の間には距離ができるからだ。広い店内、目当ての本を探し当てたり、パソコンで検索したりするのはとても難しく、半泣きになることしばしばだった。若葉マークを胸に貼り付けたい、と真面目に考えた。
この齢になると、社長や店長以外では自分が最年長ではないかな、と思い臨む。半数くらいは、その読みが当たる。ここも然りであった。
宮下さんは黒ぶちの眼鏡をかけた、細身で174cmくらいの物静かな青年だった。声を荒げたり、大きく相好を崩したりしないように見えるし、実際そういう人だった。店長の期待と信頼を担い、その通り細かく丁寧に複雑な書店の作業を教えてくれた。
京都の学生時代からこれまで、本屋でしか働いたことがない、という経歴の持ち主で、私はひれ伏したくなった。
「宮下さんて、昭和55年生まれくらいですか?」
と訊くと、53年です。無表情に答えた。
「若く見えますね。」
と正直に返したら、年相応です、とまた無表情に答えた。
柔らかな口調と生真面目さとシャイな宮下さんには、何を言われても気分を害されることがなかった。私よりちょうど10歳年少だが、豊富な知識と経験と絶妙な安定感を醸し出す彼を、私はかけ値なく師匠と仰げた。
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