第72話

3名のお弟子さんの一人が高校2年生で、一粒種の大事に育てられている感がぷんぷん溢れる女の子だった。進学率が高い地元の公立高校に通っていたが、部活に忙しく、そろそろ大学受験に向けても本腰を入れたいとのことで、二胡修行は休止した。おおよそ予想はしていた成り行きだった。


お弟子さんは2人のみになっていた。

音楽教室は自宅から車で約40分の隣りの市にあり、月謝の4割は教室に納める。交通費支給なし。もっぱらボランティア精神と、二胡の腕を落としたくないためにやって来たようなものだった。もっと教室として宣伝して生徒増加に積極的になってほしいと頼んだが、それから1年以上経ってもお店側の意気込みや真剣味は感じられなかった。

それに、台湾を離れて3年あまり。私は独学ばかりで、師匠から新たな技術を学んではいない。音楽の楽理をしっかり身につけたわけでもない。

収入の面でももっと上を目指したいが、二胡のレッスンがあると、新しい仕事に移行しにくい現実にぶつかった。


これらの要因が重なり、11月のこの時点で、来月(2015年)いっぱいで二胡講師を辞そう、と思いはほぼ固まっていた。

10日、ようやっと高瀬店長から採用決定の電話が来た。翌日お店に来てほしいと言われ、もう働く準備をして行くと、契約手続云々や、11月のシフト希望を聞かれたりの事務的事項の確認だけだった。出勤は14日から。

この日、来月で二胡稼業はおしまいにする、と決意した。

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