第71話

〝日本へ帰ったら、二胡の先生になりたい!〟夢を叶えて、3名のお弟子さんに教えながら、ほとんどクチコミで広がった演奏の機会。

第一回目の演奏は、地元校区の小学校でだった。音楽の特別授業で。母が日本琴の師範であるのを知る先生がいらして、最初は母に依頼があった。そこから私の二胡が知れて、コラボすることになった。

聴衆は高学年5,6年生と校長先生を頭に先生数名で、ホールではなく音楽室が会場だったが、私はどうして弓をさばくのかも思い出せないほどカチカチになるわ、心臓バクバク、なし崩し的にお琴との合奏が始まると、指が震えて、汗がにじんで指が弦の上をちゃんと滑らない。あまりの出来の悪さに萎縮し、羞恥心に侵食され、顔から火を吹きそうになった。


二胡自体、見たことがない、聞いたことがない人が多い中、私の演奏はそれなりに体裁は整っていたかもしれないが、ふだんの練習を家で聴いている母は手厳しかった。

「なんや、あれ。」

仰る通りです。

「まあなあ、練習通り人前で弾くことがなかなかできへんのが普通や。ふだんの実力が出せるまでが長い。慣れ、やね。場数踏むしかない。」

説得力があった。

この約3年間で15回以上ステージに上がったが、‘場数’は裏切らないと思う。己の気持ちの持って行き方も試行錯誤して、緊張しないための調整法も少しずつつかんで来た。台湾の師匠の言葉を思い出しもした。


本屋の面接結果を待つ11月8日の大舞台は、快晴の空みたいにカラッと気持ち良く、平常心で弾けた。そういう時の達成感は爽快この上ない。

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