第67話

知る人ぞ知る、ある著名人の著書にこういう言葉がある。

「悩む、ということは、結局、どちらでもいいということ。本当に切羽詰まった状況で悩んでなんていられない。即決即行しかない。」

蘭は2015年の10月末に、ようやく日本で来春から今の同級生たちと地元校区の中学校へ行く、と決めた。

悩んでいた私は、それでひと息つけた。もう行ったり来たりせずに済む、と、胸が軽くなった。そう、私は〝悩んでいた〟のだ。

私は、台湾移住派だった。老いた両親問題はあるにしても、台湾には次女がいる。

それに、再び台湾に帰るタイミングとして、2016年春以上に好機は見当たらなかった。蘭が小学校を卒業したら、翌4月には台湾に越す。あちらは9月入学なので、4,5,6,7,8月と5ヶ月間は遅れた中国語を勉強できる。帰国して約4年。中国語力を取り戻すにはギリギリのブランクに思えて、帰るならこれを逃せない! との焦りもあった。

以前、1年半勤めた台湾最大の英日語学校に、もしもう一度講師として働けるとしたら、労働ビザはすぐ取らせてもらえるか、と尋ねて、良い返事をもらったり、大工業団地がある新竹縣に出向していた日本人日本人の知人にも相談し、仕事を紹介してもらう手筈を整えたりして、蘭よりずっと前のめりになっていた。


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